「カリマンタンのダヤッ料理(8)」(2021年09月03日)

クトゥパッカンダ~ガンの飯はパサパサ飯だから、皿の上ですぐに崩れてバラバラになっ
てしまう。若いヤシの葉で作った容器の形は維持されない。だからカンダ~ガンのひとび
とのしていることが揶揄される。わざわざクトゥパッの容器を作り、そこに米を詰め、わ
ざわざ特別に炊き、いざ食べるときに皿の上に置くと崩れてバラバラになる。これじゃあ
パサパサ飯を一括で炊いて、それを皿に盛るのとどこが違うのか?手間暇かけてご苦労さ
ん。

しかしクトゥパッカンダ~ガン食堂はシアム米の飯をプルンな飯に変えようとしない。プ
ラ飯でなければクトゥパッカンダ~ガンにならないとかれらは言い張るのである。ジャワ
のコメを使うとベタベタになり、濃いココナツミルクの汁に浸してしまうと、お粥のよう
になってしまうのかもしれない。クトゥパッカンダ~ガンの食べ方はきっとプラな飯に最
適な方法なのだろう。


ヌサンタラで一般的なおやつの中にンピンempingというものがある。ムリンジョmelinjo
という樹(日本語ではグネモン)の実を素材にしたものが一般的になったために、ンピン
と言うとemping melinjoを指すことが習慣になってしまったようだが、元々はコメが素材
だったように思われる。インドネシア人は甘いものが好きで苦いものなんか食べないとい
う先入観は、かれらがンピンムリンジョを食べている姿が目に入っていないからだろう。

ムリンジョの実はまず中火で炒られる。砂焼きにする方法もあるし、茹でる人もいる。そ
して外皮と中皮をはがすのだが、これは一個一個の実の皮を手ではがす作業になる。その
あと、実をひとつひとつ木槌や円筒状の石でつぶし、更に叩いて厚紙のようにしていく。

妥当な薄さになったところで、24時間乾燥させる。これは一個の実が一枚のンピンムリ
ンジョになったものだ。それがそのままつままれて口に入って行くことになるのだが、世
の中にはクルプッkerupukくらいの大きさのンピンムリンジョもある。それは数枚をつな
げて作る。言うまでもなく、芋やトウモロコシの粉を混ぜたり、甘辛い味付けをしたりと
いったことも行われて、ンピンムリンジョのバリエーションが広がっている。

一方、あまり目にする機会がないコメのンピンも地方へ行くとまだまだ一般的に食べられ
ているのだが、都市部のスーパーの棚はンピンブラスemping berasがあっても陰に隠れて
いるようで、ンピンムリンジョの独り舞台の感が強い。

スマトラのブリトゥン島では、モミ粒を24時間ココナツミルク溶液に浸してからつぶす。
すると平らなンピン状になってくる。その後でザルに載せてふるい、籾殻はきれいに除去
される。別に用意してあったココナツミルクの水溶液・ヤシ砂糖・パンダンの葉を混ぜた
ものをンピンブラスと一緒に皿に入れて食べる。このコメの食べ方は陸稲栽培者がバリエ
ーションのひとつとして行っていたようで、やはり陸稲栽培の盛んなカリマンタンでも同
じような食べ方が伝統的に行われて来た。

パランカラヤでは、ンピンと言わずにクンタkentaと呼ばれている。使われるのは陸稲の
モチ米だ。インドネシア語のモチ米ketanはジャワ語源だそうだから、果たして関係があ
るのやらないのやら。

まだモミの状態のモチ米を炒って半焼けにしたものを一昼夜冷水に漬けてふやけさせる。
それを木製の臼に入れ、ウリンの木で作った杵でつぶす。つぶしている間、カルイルと呼
ばれる竹製の薄いヘラで中身をひっくり返し、均一につぶれるようにする。日本の伝統的
餅つきのような大きな道具を使って力いっぱい叩くことはしないが、実に大きな日本の伝
統との類似性をわれわれはその作法に見出すことになる。[ 続く ]