「カリマンタンのダヤッ料理(終)」(2021年09月06日)

平らにつぶされたモチ米と籾殻が入り混じっているから、それをザルに移してふるい、籾
殻を除去する。ふるいに掛けられたときに籾殻が自然に飛んでいくような状態に搗くのが
作る者の腕の見せどころだ。下手な搗き方をすれば、籾殻がモチ米にめり込んで離れなく
なり、手でひとつひとつを除去する作業が発生してしまうからだ。

平らになったモチ米は温水で柔らかくする。そして先に作っておいた、ヤシの果肉のフレ
ーク・粉砂糖あるいはヤシ砂糖・少量の塩の混合物をふりかけて食すると、甘くて旨く、
腹にたまるおやつになる。

パランカラヤ市から3百キロ以上西方に離れたパンカランブンの住民は、コメの収穫のと
きにクンタを食べるのが慣習だと語る。地元でそれはウンピンumpingと呼ばれている。村
人が総出で穫り入れを行うとき、畑の中に建てられた壁のない高床の小屋に集まって休憩
し、みんなでクンタを食べる。

パンカランブンから百キロほど北のラマンダウでは同じものがバハップbahapと呼ばれて
いる。そこでは、クンタは収穫の神事に使われていて、これから収穫を行う畑から先に穫
られたコメがその材料にされる。神事の供物とされているために、バハップを作る習慣が
依然として維持されているのだ、とラマンダウ住民は述べている。

ラマンダウの農家がクンタを作るのは決まって年に一度、3月4月の陸稲収穫期がそのシ
ーズンになる。収穫を手伝ってくれる村人たちと共にラハップを食べ、しかも一部は慣習
を司る村の長老に提供する。コメの収穫が大きければ、その一部をも長老に差し出す。ダ
ヤッ人がいかに分け与えることを生き様にしているかがそこに示されている。


クンタ作りは中部カリマンタンのすべてのダヤッ族が行ってきた。臼を搗くとき、リズム
を付け、それに合わせて歌が唄われた。民俗芸能がそのようにして日常作業から発生した。
バリト地方では杵の頭部をえぐって中に別の木切れを入れ、杵を搗くと音のバリエーショ
ンが出るようなことさえ行われた。

カリマンタンでクンタは農民の生活の中に息づいている。農民たちが農民の暮らしを続け
る限り、クンタは生き続けることだろう。ラマンダウでは、パサルへ行けばクンタ、つま
りンピンブラスを売っているひとがいる。しかしパランカラヤのパサルでは、もう誰も売
っていない。あるのはンピンムリンジョだけだ。


バンジャルマシンで伝統様式の結婚式に不可欠な料理がある。新郎新婦の家では結婚式の
前日にガ~ガンガダンピサンgangan gadang pisangが料理されるのだ。この料理にはバナ
ナの木の芯が使われるのである。およそ十本のバナナの幹が割られて白色の芯が取り出さ
れ、細切れにされる。

ココナツミルクにバナナの木の芯とカボチャとササゲ、そして小エビと若いココナツ肉の
フレークが加えられ、百人分を調理できるほどの巨大鍋で煮られる。この料理が結婚式の
準備に来てくれた人たちに振舞われるのである。

地元文化研究者によれば、バンジャル族の結婚式にガ~ガンガダンピサンの料理を食べる
のは生命力sumangatに関係しているそうだ。結婚の祝宴の前にそれを食べると、興奮を冷
まし、冷静さと忍耐力を高める効果があると信じられている。そして新郎新婦が落ち着い
て円満な家庭を築くようにとの願いも込められている。

また夫婦の暮らしがバナナの性質を反映するものになることも期待されている。つまり早
く実がなるように、実がならないうちに死なないように、その生涯が平穏に包まれるよう
に。

しかしずっと北の地域に住むバンジャル人はこの料理を食べるのをもっと即物的に解釈し
ている。つまりこの美味い料理を食べて子孫繁栄と一家の平穏無事を手に入れるように、
というものだそうだ。[ 完 ]