「ウシ ウシ ウシ(3)」(2021年09月08日) 国民のそんなあり方を転換させるべく、政府は努力を続けている。家畜の飼育をビジネス として行わせることで、需給関係にアンバランスが発生した時に肥育牛の早めの出荷が行 われるようになり、価格の暴騰を抑えることができるだろう。市場相場に応じて資産を回 転させることで、飼育者も得られる利益をより大きくすることができる。 たとえば、肥育牛オーナーが集まって共同飼育方式を開始した例がある。複数に分かれた 資産所有者が集まってひとつの大規模飼育場を運営するような形だ。集落から離れた場所 に大きい牛小屋を建て、家庭生活から牛を切り離した。部落での家庭生活は清潔なものに なった。飼料の共同購入、排泄物の包括処理などにコスト面でのメリットが発生し、更に は流通機構側からの接触が容易になってビジネスとしての効果も向上した。しかし牛肉や 肉牛輸入を減らして国内産でまかなうには、政府の長い努力がまだまだ必要とされている。 ヌサンタラでは実に、さまざまな生き物に格闘の機会が与えられている。闘鶏や闘羊は言 うに及ばず、チュパン魚の闘魚・コウロギの闘蟋・イヌの闘犬・ウシの闘牛まで多岐にわ たっている。イヌの闘犬は10年くらい前から知られるようになったものであり、インド ネシア人にとって伝統催事ではなかった。ジャワやバリで暴力の興奮と賭博を好むひとび とが密かに始めたものだそうだ。10年くらい前に始まったのか、それとももっと古くか ら行われていたものが10年くらい前に明るみに出たのか、実態はよく分からない。 イヌに関しては、猟犬とイノシシを闘わせるadu bagongが西ジャワで1960年代から行 われている。 ヌサンタラの伝統的な闘牛は牛同士を闘わせるものであり、スペインで行われているよう な人間と牛の闘いではない。ヌサンタラでは、牛同士の闘牛はアチェと東ジャワのバウェ アンBaweanが有名だ。バウェアン島の闘牛は地元でトットッtoktokあるいはthokthokと呼 ばれており、二頭の牛が角突き合わせて力を競う闘技である。闘牛をさせることによって 牛の筋骨を鍛え、力強い牛に育てることが目的だと言われている。 アチェの闘牛はアチェ語でadu lembu、インドネシア語でadu sapiと呼ばれる。マレーシ ア語とインドネシア語におけるlembuとsapiの違いは拙著「インドネシア語とマレーシア 語」の中に説明があるので、下のページでご確認ください。 http://omdoyok.web.fc2.com/Kawan/Kawan-NishiShourou/Kawan-54Indonesia_Malaysia.pdf 18〜19ページにあります。 格闘の他には走り競争の機会も設けられていて、マドゥラ島ではkarapan sapiやkarapan kambing、更にはkarapan kelinciまで担ぎ出されて大賑わいの態だ。カラパンカンビンは 東ジャワ東岸のプロボリンゴにもある。西ヌサトゥンガラ州ではbarapan keboが行われて いる。水牛kerbauを使うところがミソだろう。バリ島ジュンブラナ県では同じような競争 がバリ牛を使って行われていて、名称はマクプンランピッMakepung Lampitとなっている。 ミナンカバウ王国の中心であるタナダタル県で行われている牛の競争はPacu Jawiという 名称だ。こうして見ると、牛や水牛を走らせてスピードを競う催しはヌサンタラのほぼ全 土に存在していることがわかる。 「牛は人間より走りが遅い」「馬は速いが牛は鈍重」などという日本人の持っている牛の イメージとヌサンタラにある実態とはかなりの落差があるように思われる。なにしろカラ パンサピは225メートルのトラックを20秒未満で走る抜けるそうで、並の人間が走っ て追いつけるわけがあるまい。[ 続く ]