「イ_ア東部地方料理(3)」(2021年10月01日)

ロンボッのカンクンは他の地方で栽培されているものと異なって、川の流水の中で特別な
手法で栽培されている。おかげで茎が大きく、しかも咬みきりやすい。ジャカルタのアヤ
ムタリワン食堂はたいてい、その特別製カンクンをロンボッから取り寄せており、ジャカ
ルタのパサルで手に入るものは使っていないところが多い。なぜなら、ロンボッ産カンク
ンを知っている客には一目瞭然なのだから。プレチンカンクンには普通、モヤシ・ササゲ
・揚げピーナツ・削ったヤシの果肉などが加えられる。

いつのころからか、カンクンを日本人が空芯菜と呼ぶようになった。中国語ネットを見る
と、空芯菜を日本語として扱っているページが見受けられるので、日本人の発明なのだろ
う。しかしまったく中国語として扱っているページもあり、中国人がすんなりとそれを日
製漢語として受け入れた様子が感じられるのである。


ジャワ島に出て行ったアヤムタリワン食堂では、カンクンをロンボッから取り寄せている
ところが多いが、ヒヨコまで取り寄せたりはしない。ヒヨコの味はジャカルタ近辺でもロ
ンボッでも変わらないなのだそうだ。しかしブンブの辣味調整は否応なしに行われている。
トウガラシの量をその土地のマジョリティ嗜好に合わせるのである。客の舌がササッSasak
人と違うのだから仕方あるまい。

インドネシア人の辣味受容力は外国人の目に同じように映っているかもしれないが、実際
はひとによって大違いであり、その地方の標準、その家庭の標準が違っていて、その影響
を受けて育っているから、決して同じレベルではない。

ジャワの都会に出て来たササッ人が故郷の味を懐かしんで食べに来ても、故郷の辣味を感
じられないために違和感を覚えるばかりという話だ。ヨグヤカルタなどではやたらと甘味
が感じられて、アヤムタリワンとは思えない食べ物になっていると言うひともある。

だから店側もその対策を講じていて、ササッ人やマナド人の客が辣味を求めるとそれに応
じられるように、故郷の辣味を別に用意している。

ジャカルタの老舗アヤムタリワン食堂では、こんなブンブの作り方をしている。乾燥させ
て黒くなった大トウガラシとチャベラウィッとトラシを擦り石ですり潰し、炒めて水とラ
イムの搾り汁を加える。更にニンニクと塩をすり潰して混ぜ、それを肉にまぶして焼いた
り炒めたりする。トウガラシとチャベラウィッの量を調節して故郷の辣味と異郷人の舌を
満足させる味をそれぞれ作り出すのだろう。


もうひとつ、アヤムタリワンに付き添う野菜料理がある。べべロッbeberokと呼ばれるこ
の料理は野菜料理である。小さい紫ナス・ササゲ・トマト・チャベラウィッ・トラシを混
ぜたものに使用済みの熱い揚げ油を振りかけ、そこに赤バワンの細切れとライムの搾り汁
を加えて作る。

これがアヤムタリワンとプレチンカンクンに加われば、三役揃い組になって究極のロンボ
ッの味覚を堪能することができるにちがいあるまい。[ 続く ]