「イ_ア東部地方料理(5)」(2021年10月05日)

いくつかの野菜と大きいマハタの一切れがショウガ味の勝った酸味スープに入っている。
獲れたてのマハタの旨味が汁に溶け込み、魚天国を堪能することができる。風の強い季節
になると、マハタはあまり漁師の網にかからなくなって、魚の酸味スープの格が落ちるこ
とになり、ファンを失望させてしまう。マハタの旨味が溶け込んだ薄く黄色いスープは喉
ごしが軽い。黄色はウコンがもたらしている。フローレス島のあちこちにこのメニューが
あるものの、それぞれ多少の違いがあって、酸味をブリンビンウルでなくライムの汁から
取るところもあるし、伝統的な酸味スパイスが使われることもある。

ララントゥカで好まれている地元料理には、ルンプランペrumpu rampeというものもある。
パパヤの葉、パパヤの花、バナナの花、未熟パパヤ、ニンジン、ジャガイモなどを合わせ
て炒めただけのものだ。それらは地元のパサルでごく一般的に販売されている食材である。
つまり、簡単に手に入る物を簡単に料理して食べているのが東ヌサトゥンガラ人だと言え
ないこともない。

どこのパサルでも普通に売られている芋の葉やワサビノキの葉も、澄し汁やココナツミル
クを加えた濃いスープに入れられる。パサルで売られているそれらの野菜類には、苦みや
渋みの強いものもある。そんな食材はまず茹でて、その後で炒められる。でなければ、細
切りに塩を振りかけ、その後で水気を絞ってから炒める。スパイスは赤バワン・ニンニク
・ショウガが主役を演じ、トウガラシやコショウはお好み次第で使われる。


祭事によく登場するメニューはラワルlawarと呼ばれる一種のサラダだ。新鮮なキャベツ
・ニンジン・クサンビkesambiの葉・トマト・ブリンビンウル・赤バワンの細切れに、塩
・赤バワン・コショウで作ったドレッシングをかけたもので、フレッシュな香りが食欲を
そそる。魚のおかずがない場合には、このサラダと飯だけで食事することもある。

塩魚も日常のメニューのひとつ。これは取れたての魚を塩でまぶし、3〜7日間天日干し
するとできあがる。パサルでも、薄い塩に包まれたまだ新鮮な白身の状態で売られている。
それをちょっと炒めるだけで、おいしいおかずになる。

しかし何と言っても、祭事の食卓の目玉は肉だろう。赤バワン・ニンニク・コリアンダ・
ショウガ・トウガラシ・塩で作ったサンバルを牛肉にまぶして炒めるサンバルゴレンスタ
イルか、またはそれを水気が無くなるまで熱した乾炒めスタイルが多い。

甘い物ではキャッサバから作るクエプトゥkue putuがある。キャッサバは皮をむいて切り、
天日乾燥させる。乾燥したら潰してヤシの果肉フレークと混ぜて蒸す。粘りのあるテクス
チャーのクエプトゥは大きめのサイズで作られるから、四分の一くらい食べたら相当に腹
が満ちる。この菓子は東南スラウェシ州ワカトビ群島のローカル菓子ソアミsoamiによく
似ている。


ララントゥカ地方での稲作は、天水農法であるために収穫はたいてい年一回だ。しかし灌
漑農法を行っているわずかな地方では、一年中コメが穫れる。パサルで売られている炭水
化物はキャッサバ・トウモロコシ・アワ・ソルグム・タロ・種々の芋類や他の穀物などバ
ラエティに富んでいる。それらはコメの代用もしくは米に混ぜられて食される。またトウ
モロコシは潰してから炒ってポップコーンのような軽食にすることもある。特にトウモロ
コシ飯は満腹感が長持ちするので、一部のひとがとても愛用している。

昔ははるかに多種多様な芋類が食されていたが、コメの普及が進展したために芋類のバリ
エーションは減ったと昔を知っている人たちは語っている。


ララントゥカから西方へ280キロ離れた、フローレス島中央部に位置するエンデEndeの
町に、フローレス島のローカルフードを供している数少ないレストランがある。そのひと
つがRestoran Pangan Lokal, Center of Flores Traditional Food。コンパス紙記者が1
0年前にそこを訪れた時の記事がある。その当時は地元料理を食べることのできる唯一の
レストランだったようだ。[ 続く ]