「ヌサンタラの馬(8)」(2021年10月14日)

ロンボッ島のすぐ東隣にあるのがスンバワSumbawa島で、更に東方にフローレス島が飛び
石状に一列に並んで小スンダ列島を形成している。フローレス島の南にぶら下がるような
位置でスンバ島とティモール島が外バンダ弧南端の崖の上に載っているというのがヌサト
ゥンガラの地勢図だ。

スンバワ島はビマ・ドンプ・スンバワ・西スンバワの四県とビマ市の五つの行政区画に分
かれている。スンバワ島の東部を占めているビマ市・ビマ県・ドンプ県の先住民はンボジ
ョMbojo族であり、中部以西に住むスンバワ族別名サマワSamawa族とは文化を異にしてい
る。それら異なる種族は異なる王国を作って歴史の中を歩んで来た。そのためにスンバワ
島にはスンバワ馬とビマ馬の二種類がいるように見える。

スンバワ馬の体格諸元は一般に、体高はオス128センチ、メス113センチ、体長はオ
ス120センチ、メス111センチ、体重オス213キロ、メス282キロ、体形は小さ
くコンパクトで背は平だが、競走馬は中凹だ。頭部は大きめで、後脚の方が前脚より長い、
と記された資料がある。一方別の資料には、ビマ馬は1〜3歳で平均110〜113セン
チ、4〜8歳で114〜117センチ、大人になると119〜120センチになると書か
れていて、スンバワ馬の方が大型であるような印象を受ける。

ただし、個体差が激しいのが普通である生き物の体格測定平均値が、いつどこで測定され
てどのような算出方法の結果得られたのかよくわからないこの種のデータ数値を基にして、
比較されている生き物が同種なのか異種なのかといった判断ができるようには思えない。
インドネシア語文書の中に、それらが同一あるいは別種のものと断じている言葉をわたし
はいまだに見つけられないでいる。

スンバワ馬の呼称はスンバワ島の馬全般について言及しており、ビマ馬の名前はビマ王国
あるいはンボジョ文化にからめてインドネシア語文書の中に出て来る傾向が感じられ、同
じ物を異なる立脚点から別の名前で述べている可能性も否定しきれないようにわたしには
思われるのである。判断中止状態でこの拙文を進めていくしかないので、用語面での混乱
が起こるであろうことをご容赦願いたいと思います。


インドネシア人にとって馬と言えば、たいていのひとがスンバ馬を思い出す、と先に書い
た。ところがスンバワという地名もたいていのインドネシア人に馬を思い出させるのであ
る。ただし馬そのものでなく、馬乳なのだ。スンバワ島で生産される馬乳にはsusu kuda 
liarという名前が付けられた。だからしばしばその名称にSumbawaとかBimaあるいはNTBと
いう地名が添えられて、ひとびとの記憶脳に書き込まれて来たのである。

kuda liarというインドネシア語は野生馬を意味している。往々にして一般消費者の間か
ら、「野生馬のミルクをいったいどうやって搾るのか?飼いならされた馬の乳を搾ってい
るはずなのに、いかにもバイタリティを感じさせるような言葉を使うのは誇大表現くさい。
」という批判が語られる。

スンバワ島の馬乳関係者が言うには、「その通りです。飼いならされた馬の乳を搾ってい
るのだが、スンバワ島ではすべての馬が常に草原で放し飼いされていて、野生の状態とな
んら変わらない。馬小屋に置かれて飼料で育てられている馬のミルクではないという意味
でススクダリアルと呼んでいる。」との説明だった。


スンバワ島にいる馬の頭数は中央統計庁によれば、2018年20,206頭、2019
年18,582頭、2020年14,378頭、と減少傾向に陥っている。言うまでもな
くスンバワ島でも、農耕や荷物運び、あるいは引馬・乗馬・競走馬そして食肉にされる者
まで馬はさまざまな用途に使われており、そこに加えてインドネシアで名高い野生馬ミル
クを市場供給する馬がその中に混じっているということであって、スンバワ島の馬がすべ
てメスであるはずがない。馬がいる他地方でも馬乳は採れるが、たいていが飼い主の一家
や隣人たちが飲んでいるか、せいぜい地元で販売されているだけであり、インドネシアの
広域商業ネットワークに載ったのがスンバワ産のものであったということなのだろう。
[ 続く ]