「ジャワ島の料理(3)」(2021年11月08日)

都市部で有名になったWarteg(=Warung Tegal)の町トゥガルはジャワ島北岸街道沿いの港
町だ。ところが2009年から10年にかけて、わたしは何度も街中を車で通過したが、
ワルテッの看板はどこにも見当たらなかった。

トゥガルの住民は朝食にnasi ponggolを食べるひとが少なくない。朝になると、ナシポン
ゴルを売るワルンが早朝から開店し、あるいは道路脇にテーブルを置いて商売を始める道
端仮設売店も出現し、自宅で朝食を作らないひとびとがそこにやってくる。

ヌサンタラの各地にあるナシブンクスのひとつであるこのナシポンゴルは、飯と三種類の
おかずがバナナ葉に包まれたものだ。おかずは一般的にサンバルゴレンテンペ、麺または
ビーフン、そしてササゲまたはナンカの煮物。アチャル(野菜の漬物)も忘れない。甘い
味付けとチャべの辣さがあいまって朝の気分を爽快にさせる、とナシポンゴル朝食派は言
う。

トゥガルの町では昔、ナシポンゴルは早朝しか売られていなかった。ところがそのうちに、
夕方から夜にかけて販売する店が現れた。そしてそれらの店では店主の期待に応えて、夜
でも売れ行きは好調という話だ。

ナシポンゴルは元々ナシブンクスだったのだが、朝食でない時間帯に食べられるようにな
ると、持ち帰り用のナシブンクスと店で食べるために皿に置かれたナシチャンプルの形に
分化した。つまり皿に置いて店先で食べるスタイルのナシチャンプルもナシポンゴルとい
う名前で呼ばれているので、言葉の定義付けがたいへんややこしいことになる。

言うまでもなく、レディメードである朝食用のナシブンクスはおかずを選択する余地がな
いものの、ナシチャンプルとしてイートインされる場合はおかずの内容をお好みに合わせ
て選択する自由が出現する。そんな店で持ち帰り用にブンクスする場合もおかずが選択で
きる。

あるナシポンゴルワルンは、3x4メーターほどのスペースにテーブルが4つ置かれ、ガ
ラスのショーケースの中に30種類ものおかずが並べられていて、ブンクスにせよチャン
プルにせよ、客はそのおかずを好きなように選択している。選んだおかずによって値段が
違ってくるのは当然だ。

このワルンは午前11時から深夜24時過ぎまで営業している。15時ごろまではサユル
アサムがメインのメニューになっているのだが、それを過ぎるとナシポンゴルに変わる。


ジャワ人は友人や知り合いに出会うと、まず「スダマカン?」の質問を発する。「まだ」
という返事が返って来ると、その辺りの食堂ワルンに足を向ける。食べながら話をしよう
というわけだ。ナシポンゴル食堂はそんなジャワ人の習性にもってこいの場所のひとつだ
と言えよう。

店先でナシポンゴルを食べる場合でも、皿にまずバナナ葉を敷いてから熱い飯が盛られる。
それはナシブンクスのイメージにつなげるためである以上に、バナナ葉に熱い飯が置かれ
ると飯の香りが良くなることが理由だからだ。

深夜まで営業しているそのナシポンゴルワルンでは、30種ほどのおかずは夜になると補
充しないので、夜が更けるにつれておかずの種類がどんどんと減って行く。ただひとつだ
け、絶対に補充を欠かさないおかずがある。店主によれば、それはサンバルゴレンテンペ
なのだそうだ。

ほかのおかずはまだあるのにサンバルゴレンテンペが見当たらないと、何も買わずに去っ
ていく客がある。その反対に、他のおかずはゼロになったのに、サンバルゴレンテンペだ
けが残っていれば、それだけで飯を食う客がいる。店主はサンバルゴレンテンペの重要性
を十分認識しているようだ。[ 続く ]