「ジャワ島の料理(4)」(2021年11月09日)

チャンディボロブドゥルを擁するマグラン県の独特な料理にnasi godhogがある。ジャワ
語のゴドッはインドネシア語のgodokになった。どちらも茹でることを意味していて、煮
る・煮詰めるという意味を示すことが多い。

ナシゴドッは飯を炊く方法でなく、汁麺を作るときに飯を一緒に加えて煮ることから起こ
った表現だ。つまりラーメンの中に飯が一緒に入っている料理をイメージすればよい。

ヨグヤカルタからボロブドゥルを目指すとき、道路脇にナシゴドッの看板を掲げた食堂を
頻繁に目にするだろう。そんな店にやってきた地元民の中に、麺なしのナシゴドッを注文
するひとも少なくない。そうなると、汁麺のレシピの中に飯だけが入っている料理になる。
麺よりもこの方が美味いんだよ、とかれらは言う。

麺の有無にかかわらず、客の中にpetaiの追加を頼むひとも少なからずいる。マグランで
はいろいろな料理にプテがよく使われており、昔からこの地方に豊富な食材であったこと
を思わせる。


汁麺に飯を入れるくらいだから、飯を混ぜたミーゴレンもあるかと尋ねられたら、ないと
は言えないのだが、実はそれは正しい言い方にならない。ナシゴレンに麺を混ぜて作るの
がマグラン風ナシゴレンなのだ。このナシゴレンはバワンゴレンとセロリ葉のみじん切り
を振りかけて食べる。

マグランでナシゴレンを注文するとそれが出て来る。ところが、ヨグヤカルタでもマグラ
ン風ナシゴレンは容易に出会うことができる。ただしヨグヤカルタでそれを食べたければ
ナシゴレンマグラガンと言わなければならない。しかしマグランでわざわざMagelanganな
どと言う必要はないのである。ミナンカバウでわざわざレストランミナンと言う必要がな
いのと同じだ。


マグランで一般的な料理のひとつがkupat tahuだ。これはタフゴレンとモヤシ・キャベツ
をクトゥパッ飯と合わせ、すりつぶしたニンニクとトウガラシをケチャップマニスに混ぜ
たブンブ汁をかけて食べるもので、食べる前にバワンゴレンとセロリ葉のみじん切りが振
りかけられる。昼の暑い時間に食べると、爽快感が美味しさを倍加させる。

この高原地帯で夕方に涼風が流れるころになると、地元のひとびとは温かく甘い飲み物で
一日の疲れを癒す。wedang rondeやsekotengがそんなときの人気のある飲み物だ。スラッ
チュンティ二にcokotenと書かれていたものが、どうやら現代のsekotengと思われる。

ジャワ語のウェダンは温かい飲み物を意味し、甘い生姜湯に種々のスパイスを加えたもの
が定番飲料としてヨグヤ・ソロで確立されている。だからwedang jaheと呼ばれることが
多い。そのウェダンに団子を加えて中国の湯円のようにしたものがウェダンロンデだ。

スコテンも甘い生姜湯にさまざまな具を入れたもので、ウェダンロンデと類似の発想だが、
具が多種にわたっていて楽しいことと、容器や盛り付けもウェダンロンデとは異なってい
て、若者向きと言えるだろう。


ウェダンによく使われるスパイスとして有名なのはsecangである。スチャンとは蘇芳の樹
のことだ。木の幹を削ったものを熱湯に入れると、濃い赤色になる。スレー・シナモン・
パンダン葉・カルダモンなどのスパイスとヤシ砂糖を一緒に入れて煎じたものがウェダン
スチャンである。ウェダンスチャンはのど越しがたいへん気持ちよく、健康飲料として常
用しているひとがたくさんいる。

更にショウガを加えれば血行が良くなって身体がほかほかしてくるから、ウェダンスチャ
ンジャへが究極のウェダンだろう。それをウェダンジャへスチャンと呼ぶひともいるが、
名前はどうあれ、どちらも究極であることに変わりはない。

スチャンはジャワ語であり、ムラユ語はsepangと言う。ムラユ語のスパンという音に当て
て福建人が蘇so芳phang、あるいは潮州人が蘇sou芳pangと書いた。蘇芳は決して北京語で
はない。またマレーシアでsepangはタミール語であるという説もあるものの、マレーシア
の官選国語辞典Kamus Dewanには、sepangの項目にそのような解説は見られない。
[ 続く ]