「ジャワ島の料理(8)」(2021年11月15日)

科学院はそれを受けて技術開発に当たった。食品の殺菌処理が難問だった。作られた食品
を160℃まで熱してから水に浸けて急激に温度を下げることを2回行う。そのプロセス
が味を変えたり、卵の殻の割れを引き起こしてはならない。このプロセスの確立に3年近
い歳月が使われた。

2011年、インドネシア科学院とジャトゥさんの間に商業生産と販売の覚書が交わされ、
グドゥッブチトロは缶詰生産を開始したのである。最初の数年間、グドゥッブチトロ缶詰
は月産1万2千個だった。だが注文は年を追って増加し、2014年5月には生産数を倍
増させて月に2万4千個の生産に切り替えた。

ブチトロ印のグドゥッ缶詰はゴリ・クレチェッ・アヒルの卵・鶏肉が入っていて正味重量
は210グラム。味はレストランのものとまったく同一であり、防腐剤は一切使われてい
ない。賞味期限は一年間だ。


グドゥッがヨグヤカルタのアイコンであるのと同じ様に、ソロのアイコン料理としてスゴ
リウッsega liwetを挙げることができる。ジャワ語のスゴはインドネシア語のナシnasiで
ある。ところがliwetはジャワ語でリウッと発音されるのに、インドネシア語ではリウェ
ッと発音する人の方がマジョリティを占めているため、「正解は唯一無二であり、二つ目
以降の答えは間違い」を信奉するひとびとにとって甚だややこしいことになる。

スゴリウッ(ジャワ語)=ナシリウェッ(インドネシア語)は分かりやすいものの、飯の
語を抜いたliwetだけが語られるとき、リウッとリウェッの両方が出現することになる。

インドネシア語で物語っているときにジャワ語の単語を混ぜること、反対にジャワ語で話
しているときにインドネシア語の単語を混ぜることは、ジャワ人が四六時中普通に行って
いる行為なのだ。そのために、liwetの発音が同一人の日常生活の中で二種類出て来るこ
とになりかねない。


ソロのスゴリウッというのは、ココナツミルクにニワトリのブイヨンとサラム葉+スレー
を混ぜたもので炊いた飯のことだ。その飯にココナツミルクのアレッをかけ、汁気たっぷ
りのsambal goreng labu、赤バワン・ニンニク・サラム葉・ナンキョウ・ウコン・ショウ
ガ・コリアンダー・塩で茹でた鶏肉をむしったものあるいはぶつ切り、鶏卵のピンダンを
添えてチャンプルの形で食べるのが一般的だ。

ソロでは、スゴリウッは朝食または夕食のメニューとされているのだが、自宅でこの料理
を作るひとはほとんどいない。毎朝早く、天秤棒の前と後にこの食べ物を満載した物売が
住宅地を売り歩く。夕方には物売が街中の路傍で店開きし、客がそこへ買いにやってくる。

ヨグヤでもソロでも、その両方がアンクリガンangkringanと呼ばれていた。アンクリガン
で売られているものが一番おいしくて、レストランや食堂で食べても滅多に美味しいもの
に出くわさない、とソロの住民は口をそろえて言う。物売の売るスゴリウッこそがジャワ
の伝統食の勝利を証明するものである、とジャワ史を教えている大学教授までが太鼓判を
捺している。


ソロ人の朝食のもうひとつのチョイスはソトだ。牛肉あるいは鶏肉の入ったスープはココ
ナツミルクを使わないので透明感が高いため、soto beningと呼ばれている。ひとびとは
朝から開いている食堂へ家族連れで行き、みんなでソトブニンを食べる。

市内の名高いソト食堂は毎朝、客でいっぱいになる。週末やホリデーシーズンともなれば、
店内は客でごった返すことになるのだが、それでもひとびとは朝食を外へ食べに出るのを
好む。その慣習は実に根強いものがあり、近場がごった返すのならもっと遠くへ行けばよ
いという発想が出現する。こうして、郊外のカルトスロKartasuraへ、はてはタワンマグ
Tawanmanguへと朝食の足は伸びて行くのだ。自宅で食べようなどという解決策は思案の外
である。[ 続く ]