「ジャワ島の料理(27)」(2021年12月10日) ナシプチュルは往々にしてpecel Madiunという地名付きで呼ばれているためマディウンが 原産地という印象を与えているが、それが定説になっているわけでもないようだ。インド ネシア語ウィキには、ポノロゴのサテに使われるピーナツソースがナシプチュルのものと 同じであるため、原産地はポノロゴである可能性が述べられている。であっても、マディ ウン・ブリタル・マラン・クディリ・~ガウィなどでナシプチュルはよく食されており、 確認不可能な原産地探しはエネルギーの浪費でしかあるまい。 ジャカルタに住んでいたとき、ナシプチュルを美味いと思ったことがなかった。ところが ジャカルタ〜バリ間を十数回キジャンを運転して往復したころ、しばしば~ガウィNgawiの 街道沿いの安ホテルに宿泊した。そして、そこの朝食のナシプチュルがわたしを開眼させ てくれたのである。その朝食に惹かれて、何度もその宿に泊まった。 ~ガウィの町はジャカルタとバリの中間地点にある。距離としてはバリの方に近く、ジャ カルタの方には遠いのだが、十年前には~ガウィ〜ジャカルタ間にたくさん自動車専用道 があり、~ガウィ〜バリ間のわたしが通るルートには自動車道が皆無だったから、所要時 間がほぼ同一になった。そのためにガウィに宿泊する客観条件は成立していたと言えるだ ろう。 ジャワの街道沿いのホテルはたいてい大きな敷地にたくさん客室のあるモーテルタイプに なっていて、下がガレージと運転手の寝室で二階がメインの客室というところや、一階二 階が別の客室で、周囲の庭が広大な駐車場になっているタイプなど、さまざまだ。 ボーイやセキュリティに洗車を頼むと、早朝にバケツと雑巾で車体を洗ってくれる。廉い チップで大変楽をさせてもらった。ただ、客室内のサービスと言うかメンテナンスレベル はモダンな都市ホテルと比べ物にならないから、期待してはいけない。浴室トイレは決し てきれいとは言い難いし、あまり適温にならない旧式エアコンの騒音の下で眠れるくらい の根性は不可欠だろう。しかし少額のチップで車を洗ってくれるような人情は、余所で得 難いものがある。 ジャカルタにナシプチュルの食堂や屋台はたくさんある。ジャワのナシプチュルそのまま では、ジャカルタにいる東部ジャワ人に評判が良くても、一般のジャカルタ住民にはあま り受けないことを店主はすぐに気付く。一般のジャカルタ住民はクンチュル(バンウコン) の風味があまり好きでないこと、またトウガラシの辣さもソフトである方を好んでいる。 それを理解した店主はオリジナルの味覚をジャカルタ風に改めるのだそうだ。 だからジャカルタで食べるナシプチュルとマディウンや~ガウィで食べるナシプチュルは 違っていて当然ということになるだろう。 プチュルと言えば、pecel leleの名前を思い出すひとも多いだろう。レレはナマズのこと だ。ところがプチュレレに使われるサンバルはサンバルカチャンでなくてサンバルトマト なのである。つまりプチュレレのプチュルはナシプチュルのプチュルと内容が違っている のである。インドネシア語ウィキはその点に関して、本当はpecakなのに間違えてpecelの 語が使われ、それが定着したのではないかと推測している。その証拠にジュンブルJember ではpecek lele、マランではlalapan leleという別の名前で呼ばれているそうだ。 これは白飯のおかずとして、からっと揚げたナマズをサンバルトマトと生野菜で食べる料 理であり、ナマズはコリアンダー・ニンニク・ライム搾り汁・塩を混ぜた水に30分ほど 漬けてから、中火の油で揚げる。サンバルは: 赤トウガラシ5個 チャベラウィッ10個 トマト2個 ニンニク4切れ 赤バワン2個 ククイ4個 をそれぞれ炒めたものと小匙1杯分のライム搾り汁と塩を混ぜてすりつぶす。サンバルト マトにトゥラシterasi(蝦醤)を加えるひともいる。それにキャベツ・バジル・長豆など の野菜を添えて食べる。[ 続く ]