「ヌサンタラの馬車(10)」(2021年12月10日)

そんな状況の中に、やはり二輪だがもっと乗客をたくさん乗せることのできる屋根付きの
ベンディが登場した。実用性の面から、ブギはベンディに駆逐される運命にあったと言え
るだろう。ブギは日常交通機関として駆逐されてしまったが、ミナン式の婚礼の場でその
華やかに飾られた姿を見せてくれる。新郎新婦は二人乗りのブギに座ってミナン音楽隊に
囃されながら、町中を練り歩くのである。

そのような儀式的な催しには、古い伝統を誇るブギが向いている。町内のアダッを司るプ
ンフルが交代すると、新任プンフルがお披露目のためにブギに乗って町中を練り歩く。

ミナンカバウでも草競馬はたいそう人気のある催事だ。普通はジョッキーが騎馬で疾走す
るわけだが、ブギを引いてスピードを競う馬車競争も行われる。まるで古代ローマの大競
技場で行われるチャリオット競争をほうふつとさせるブギ競争は格別な人気があり、民衆
を熱狂させている。


ミナンの地でベンディが一般に普及したのは、植民地政庁が道路網の整備を行ってからの
ことであり、道路網が整備されたために街道のあちこちに町が生まれ、町々を結ぶための
交通機関としてベンディがその役を果たした。

パダン・ブキッティンギ・ソロッ・パダンパンジャン・パヤクンブなどでベンディが急増
した。1892年のブキッティンギにはベンディが125台あったが、1904年には5
31台になっている。パヤクンブでは1885年にあった33台が1903年に969台
になるというすさまじい増加が見られた。そして1904年には1千2百台に達したとい
う。

町中で近距離の客を運ぶだけでなく、町と町を結んで長距離運送も行い、ミナンカバウの
道路はベンディで満たされるようになった。アナイ渓谷やパダンパンジャンとソロッを結
ぶ急坂の難所もものかわと、ベンディは道路があるかぎり、どこへでも行った。


そのベンディが唄われているミナン歌謡Babendi-bendiは、ミナン芸能のトップヒットの
ひとつTari Payungの舞踊伴奏に使われる。今でもミナン人の中に、タリパユンを見なけ
ればミナンカバウ舞踊を見たとは言えないと主張するひとがいる。

タリパユンは三組または四組の男女カップルが踊る舞踊で、オランダ植民地時代に人気を
博したローカル演劇の中で、ストーリーの一部として演じられていたものだ。1920年
代になって独自の舞踊としての人気が高まり、ミナンを訪れる外来者を歓迎する場に欠か
せない芸能のひとつになった。

バベンディベンディの歌詞は次のようになっている。
Babendi bendi ka Sungai Tanang, Aduhai sayang
Singgah lah mamatiak, singgahlah mamatiak bungo lambayuang
Hati siapo indak ka sanang, aduhai Sayang
Maliek rang mudo, maliek rang mudo manari payuang
Salendang rancak rendo salendang
Dipakai gadih yo dipakaikan 
Dikambang payuang dikambangkan Baok baputa langkah turuikkan
Dari Indaruang nak ka Salido Singgah marapek di Pulau Pisang
Tari payuang tari rang mudo Parami alek di Ranah Minang

インドネシア語にすると多分、このような内容になるだろう。
Berbendi-bendi ke Sungan Tanang, Aduhai sayang
Singgahlah memetik, singgahlah memetik bunga lambayung
Hati siapa tidak akan senang, Aduhai sayang
Melihat orang muda, melihat orang muda menari payung
Selendang bagus renda selendang
Dipakai gadis ya dipakaikan
Dikembang payung dikembangkan, Bawa berputar langkah turutkan
Dari Indarung akan ke Salido, Singgah merapat di Pulau Pisang
Tari payung tari orang muda, Perami kenduri di tanah pertiwi
ベンディがミナンカバウでいかに日常的なものであったか、その雰囲気が伝わって来るよ
うだ。[ 続く ]