「ジャワ島の料理(31)」(2021年12月16日) 他にもジャワ島東部の食はまだまだいろいろあるが、東部ジャワ人の性格を反映している ようで、見た目がとっつきにくく、外見だけでは食欲をそそる姿をしていない。ところが いざ食べてみると、見た目の悪さは舌の好評価に押しやられて感じられなくなり、見ただ けでよだれも湧いて来るようになるのだそうだ。ブラックスープからして、その通りと言 えるのではあるまいか? ジャワ人はそれを評してnyelenehと言う。ニュルネッとは「変な」「奇妙な」「普通でな い」といった意味で、関西弁で言うなら「ケッタイな」に該当するのかもしれない。ニュ ルネッを代表する食べ物にcingur・kupang・lurjuk・petisなどが挙げられるだろう。 rujak cingurの素材が何かを耳にしたなら、子供のころからそれを身近に感じていないひ とは、まず食べようと思わないのではないだろうか。チ~グルというのは牛の長い顔の口 の部分を意味していて、つまりは鼻の軟骨などを茹でて柔らかくしたもので作られたルジ ャッなのである。 食材としてのクパンはジャワ島東部の海にのみ生息している米粒くらいの生き物で、生物 学的には貝の一種らしいのだが、貝殻などなしに海藻にしがみついている。スラバヤ〜シ ドアルジョ〜パスルアンの海岸がこのクパンの産地だそうだ。 ルルジュッ(あるいはロルジュッ)というのも貝で、これはマドゥラ島海岸の泥の中に住 んでいる。引き潮のときにルルジュッが棲息している泥の上に塩をまいてやると、大きさ が2〜3センチの貝が自分で表面に上がって来る。 集めて来たルルジュッをきれいに洗い、そのまま水を加えないで熱してやると、だし汁が 取れる。そのあと、貝は殻付きで天日干しにする。干すと貝殻は自然に外れるので、皮を むき、さらに二日間天日干しすると長期保存が可能になる。 ルルジュッは食材として使われるものであり、さまざまな家庭料理に混ぜられる。ルルジ ュッはマドゥラ島が本場で、スラバヤでも普及しているが、スラバヤの外ではほとんどお 目にかかれないそうだ。 プティスはジャワ島東部の海岸地方独特の蝦醤だ。真っ黒でドロっとしたプティスを見れ ば、ニュルネッが実感されるだろう。ジャワでは同じ蝦醤としてトゥラシが有名だ。東南 アジアの大陸に近い方では、たいていトゥラシが使われ、プティスはジャワ島東部海岸地 方でだけ普及している。クディリ・マディウン・~ガウィなどのジャワ島東部内陸部の料 理はプティスを知らない。 トゥラシとプティスの特徴は次のように比較対照されている。 [素材] トゥラシはエビや魚に塩を加えて発酵させる。プティスはエビの頭・魚・貝・イ カなどをブンブで煮込んで濃縮する。 [種類] トゥラシはterasi udangとterasi ikanの二種類。プティスはpetis udang、petis ikan、petis lorjukの三種類。 [製法] トゥラシは頭を外した魚やエビを茹で、半乾燥状態にしてから塩を加えながらつ ぶす。それを完全に乾燥させた上で粉砕し、成型する。それをバナナ葉で包み、1〜4週 間放置する。 蝦のプティスは全部をつぶして水を加えてから搾る。搾り汁を長時間煮詰めて濃くし、そ こにヤシ砂糖と塩を加えてドロドロになるまで煮込む。魚のプティスはたいていピンダン を作ったときの残り汁を煮詰めて濃くし、そこにヤシ砂糖と塩を加えてドロドロにする。 [用法] トゥラシは即席で使用できるものと生のトゥラシがあり、生は炒ったり焼いたり して必ず火を通してから使う。プティスはいつでもそのまま使える。 [風味] トゥラシは、エビは赤茶色、魚は黒っぽい。いずれも固形で、料理にコクを添え る。プティスは黒茶から真っ黒の色で、生産者によって甘味が強かったり、塩味が強かっ たりする。形は濃縮ペースト状。 [食べ方] トゥラシは料理のブンブとして、調理される中で使われる。プティスは食卓に 置かれて、料理に風味を添えるものとして使われる。[ 続く ]