「ヌサンタラの馬車(16)」(2021年12月20日) [kahar] KBBIの定義はkereta yang ditarik oleh kuda, lembu, atau kerbau; pedati; dokar と書かれている。 カハルはスンダ地方の馬車であると説明している記事に従ってスンダ語辞典を調べてみる と、乗客が背中合わせに座る二輪馬車という語義が記されている。別の資料には、そのタ イプの馬車はkahar jambanと書かれている。スンダ語辞典には更に、kahar balonという 旅行用のものやkahar perという緩衝用スプリングを使ったものなどが説明されているが、 牛車にかかわる言及は何もない。もちろん、スンダ語源の単語がインドネシア語になって 語義が変化すること自体、何ら不自然なことでないから、それを問題にするには当たらな いだろう。 植民地時代のバタヴィアで、カハルは一頭の馬が引く二輪馬車だったが、遠距離を旅する ときは馬4頭が馬車を引いた。つまりそれが、スンダ人の言うカハルバロンなのだろう。 しかし、果たしてバタヴィアでカハルバロンという言葉で呼ばれたのかどうか? カハルはデルマンやサドが一般化する前からバタヴィアにあり、中でもカハルペールは行 政高官や富裕階層が持つ自家用車だったから、世間に見栄を張るためにそれに乗って偽り のステータスを示したい者は金を払って持ち主からそれを借りたという話もある。 あるインドネシア語記事には、スンダ地方のいくつかの場所でデルマンはカハルと呼ばれ ており、本質的には同じものだが、デルマンの方がカハルよりも背が高い、と説明されて いる。 [keretek] KBBIはkereta berkuda beroda dua; dokarとその語義を示している。これもスンダ地 方で使われる名称であり、カハルと同義語とされていて、デルマンと同じものという説明 がある。ただし、クルテッは車体に上るときの踏み台が広く作られていて、デルマンの片 足しか載せられない踏み台よりも使いやすいそうだ。 [nayor] KBBIにこの言葉は採録されていない。 これもスンダ地方のチバダッやスカブミで使われている一頭立ての二輪馬車だ。車体はま るで乗合小型バスの客室だけを切り取ったような姿をしていて、車輪も自動車タイヤが使 われている。オプレッのように客室後部に乗降扉があり、乗客はみんなそこを出入りして いる。 [cidomo] KBBIの語義は dokar yang ditarik kuda memakai roda dari ban mobil bekas, dan bentuknya seperti cikar (perpaduan antara cikar, dokar, dan mobil) (di NTB)とな っている。 多分ロンボッ島のチドモが一番有名だろう。中でも、ギリトラワガン島を訪れたことがあ れば、きっと目にしているはずだ。わたしもおよそ一時間かけて、チドモに乗って島を一 周したことがある。外洋に面した島の西側はほとんど人間の姿がなく、宿泊施設もあまり なくて、個人のビラや住宅が並んでいるだけだったのだが、最新のグーグルアースのスト リートビューを見ると観光客の姿がたくさん写っていて、わたしが昔見た、あのもの寂れ た印象はもはや跡形もなくなっているように思える。[ 続く ]