「ジャワ島の料理(34)」(2021年12月21日)

東ルグンの村人たちは、屋敷内の床の上で何かをするよりも外へ出てきて砂の上で作業を
行っている。小エビを潰す作業をするにも、わざわざベランダから下に降りて、家の前の
砂の上で仕事をしていた。テレビを見るのですら、タイルの床を嫌って砂の上に座る。夜
テレビを見るときには、テレビは家の表ベランダに置かれ、ひとびとは地面の砂の上に降
りて全員が座ったり寝転がったりして見ている。子供たちが小学校の宿題をするときも、
砂の上に寝転がるのが普通だ。椅子があっても使おうとしないし、椅子に座れと命じられ
た子供たちの中には、椅子の座に砂を置く子もいる。

家々の周囲の白い砂がきれいでソフトに見えるのは、ひとびとが頻繁にふるいにかけて異
物を取り除いているからだ。砂が劣化したり汚れたりしないように、たいていゴム草履や
靴は脱いで裸足で歩く。


この村の住民タルミアさん19歳は2カ月前に母になった。赤児は砂の上に敷かれたスレ
ンダン布の上でスヤスヤと眠っている。「砂の上だと、すごくよく寝るんですよ。」と赤
児を見守りながら母親は語る。

タルミアさん夫婦の部屋には、広さ2x1.5mで高さ10〜15cmの砂ベッドが用意
されている。ベッドの枠には日干し煉瓦が使われている。砂に人間の汗が付着するので、
三カ月ごとに総入れ替えする。使われる砂は粒の丸い白砂だ。尖った砂は肌を刺すので使
えない。砂ベッドの砂粒が肌に付着しても一二度手でこすれば完全に落ちてしまい、肌か
ら落とすのに苦労することもない。

この家では、1キロほど離れたロンバン村の海岸の砂を購入している。ロンバン海岸に砂
ベッドコミュニティがあり、砂ベッドの普及促進とともに素材を用意して販売しているの
だ。2.5x4mの広さの砂の部屋を設けるには、10〜15ピクルの砂が必要だ。1ピ
クルは10リッターに相当する。

砂ベッド用の砂は表層から1jengkal(大人の手のひらを広げて親指の端から小指の端ま
での長さ)下にある砂が掘り出される。深い砂は清潔であり、また人体によい影響をもた
らすと考えられている。


村民の一人サッナウィさんは漁師だ。数日間漁に出てから帰宅すると、まず砂部屋や表の
砂でソフトな白い砂とたわむれる。そうすることでかれの疲れが癒される。客が来ると、
かれは7x5mの玄関ベランダに上がって客を招じ入れる。

大きく豪華に作られているその家と中に置かれている家具類を見ただけで、かれが砂部屋
で寝転がるのが貧しさに由来しているものでないことが分かる。
「わたしらにとって、シーツのかかったベッドのマットレスは飾り物にすぎません。結婚
したらそういうものがそろっている家に住むというのが常識なんですよ。わたしら自身は
相変わらず砂の上で座り、寝転び、人とうちとけるのが一番快適なんです。砂の上で寝て
いれば、身体のあちこちが痛くなったりしないし、仕事から帰ってきて疲れたりだるくな
った身体のふしぶしもしゃきっとしてきます。砂はわたしらの一生に欠かせないものにな
ってます。誕生・生活・死のすべてに砂が関わっているのですから。」

昔のルグン村では、出産は砂の上で行われたそうだ。生まれたばかりの赤児は全身を砂で
清められた。村人たちは、この地上に生を受けたときにまず砂の産湯を使ったのである。

砂粒は硬いから、砂に置かれた幼児は痛さをこらえようとして泣く。泣くことで全身の筋
肉が作られて行く。幼児を早く立てるようにしたい親は、子供を砂の上で遊ばせる。人間
の成育に砂は大きい効用をもたらしてきた。村の祖先たちは子孫の成育に砂を存分に利用
したのだ。[ 続く ]