「ジャワ島の料理(52)」(2022年01月19日)

良いペペスはハウで作られる。この原則は小さなワルンでも5星級の大レストランでも違
わない。そうなると、ホテルの厨房には無理な話になってくるのだ。「新鮮な食材を手早
く調理して迅速に客のテーブルに」という命題を抱えているホテルの厨房に、何時間も時
間をかけて低温でブンブを食材に浸透させることが求められているペペスは矛盾の塊にな
ってしまう。結果をひとつ出すために長時間働くハウがホテル厨房の中に座を占めれば、
調理人たちの作業空間は狭められてしまう。

だから、高級ホテルのレストランでペペスが出されたら、たくさんのスンダ人は顔をしか
めることだろう。ホテルレストランの側にも言い分はあるだろうが、そのペペスは伝統的
スンダ料理のペペスと一風異なるものであるのは疑いあるまい。だから伝統的ペペスを食
べたければワルンへ行けとスンダ人は言う。伝統的ペペスは本来が家庭料理だったのであ
り、ハウで時間をかけてこしらえたものほど、美味になった。調理人の腕前よりも装置が
もたらす影響の方が大きかったと言えよう。ペペスに関するかぎり、道端ワルンでさえ星
級レストランに太刀打ちできる味覚を提供することは不可能でなかったのだ。

ちなみにこのワルンジュルッでもララップが供される。daun dewa, reundeu, poh-pohan,  
tespong, antanan, kunyit mudaなどの珍しいものがそこに混じる。kunyitはウコンのこ
とだ。その未熟なものはさすがに生食されず、塩を振って焼いてある。店主によれば、ル
ンドゥやポッポハンは近くのサワル山から取って来たものであり、他のものはもっと近隣
のあぜ道や野原で摘んで来たものだそうだ。店主はきっと、そんなものでお客様から金を
頂こうという気にはならないのかもしれない。


シオマイとはご想像の通りのシューマイ(焼売/焼麦)のこと。中国語発音はシャオマイ
になるだろう。ところがこのシオマイは日本人の認知しているシューマイと大違いのもの
であり、インドネシアでこれはsiomai Bandungと呼ばれ、バンドンが発祥と考えられてい
る。

華人のシャオマイは豚のひき肉やエビなどを小麦粉の皮で包んで蒸したものだ。しかしム
スリムは豚を使わずにサワラ・ニワトリ・エビ・カニやそれらの組合せに変えた上、サゴ
やタピオカの粉を混ぜた練物にして成型した。また小麦粉の皮を使わないで作るひともい
て、それをシューマイと言われても信じられるひとはいないかもしれない。

シオマイにはバソタフや茹でた鶏卵・ジャガイモ・ニガウリ・キャベツなどが付け合わさ
れ、一度蒸されて温かくなったものが皿に盛られて、上からピーナツソースのかかった状
態で客に供される。

ピーナツソースは、ペースト状のピーナツにトウガラシ・ニンニク・砂糖・タマリンド・
食塩・酢を混ぜて作る。更に客の好みでケチャップマニス・サンバル・ライムの搾り汁な
どが加えられる。

昔はこのシオマイバンドン売りが自転車でジャカルタの住宅地区を巡回していた。わが家
のある町内にもほとんど毎日やってきて、当時中学生だった息子の好物になり、よく母親
に頼んで買ってもらっていたことを覚えている。あのころはsiomai/siomayでなくsomaiと
綴られてソマイと発音されていた。

当時は住宅地内を食べ物作り売り人が毎日ほぼ同じ時間帯に巡回してきており、ときどき
サテ売りを呼び止めてサテを作らせると、子供たちは大喜びしていたものだ。


カレドッはブタウィ料理のガドガドに似た野菜料理であり、カレドッが生野菜を使うのに
対してガドガドは茹でた野菜を使う点に大きな違いがある。スンダ人にとってカレドッは
日々の家庭料理であり、野菜イーターであるかれらの日常食のひとつなのだ。

キュウリ・モヤシ・キャベツ・長豆・イモ・バジル・ナス・イヌホウズキの実などが生で
使われ、ソースはトウガラシ・ニンニク・バンウコン・タマリンド汁・ヤシ砂糖・塩・ト
ラシとピーナツを混ぜたピーナツソースがかけられる。このカレドッを特徴付けるものと
して焼きオンチョムが加えられることが多い。[ 続く ]