「ジャワ島の料理(54)」(2022年01月21日)

もちろん、ナシリウッは一般家庭の台所でも作られている。女性だって作るのだ。作る量
はカストロル鍋の大きさに合わせられる。6号サイズなら米2キロ。水が指幅1.5本分
くらい米の上を浸すくらいにし、赤バワン250グラム・チャべ100グラム・トマト1
00グラムをみじん切りして塩を混ぜ、それを炒めつつサラム葉とスレーを加えてブンブ
を作る。ブンブを米と混ぜ合わせて火にかけるのだが、電気炊飯器でそれを作る主婦もあ
る。ただ、カストロル鍋を使って直火で炊いたものには絶対にかなわないのだそうだ。


タシッマラヤのナシチャンプルにnasi tutug oncomというものがある。これは白飯に揚げ
たり焼いたオンチョムが混ぜ合わされているのが特徴だ。いつごろから誰が始めたのかは
闇の中だが、1940年代には朝食にこのトゥトゥッオンチョムが食べられていたそうだ。
その時代は焼きオンチョムと塩だけが白飯に混ぜられていた。

昔のスンダ人は自宅にニワトリを飼い、養魚池を作って食用淡水魚を繁殖させていたが、
普通の日々にそれらを食べることはなく、ルバランのような祝祭のときにだけ食べていた。
そのために日常の食材としてオンチョムが重要な位置を占め、どこの家庭でもナシトゥト
ゥッオンチョムが毎日の食事として食べられていた。

あまり金がかからず、作り方で容易で、食べると旨味があるナシトゥトゥッオンチョムは
どこの家庭でも好んで作られ、食べられていた。そのうちに、ブンブを加えたもっと風味
のあるオンチョムを使う方式が広まった。赤バワン・ニンニク・バンウコン・トウガラシ
・ヤシ砂糖などで作られたブンブが飯と混ぜ合わせられたのだ。

一緒に食べるおかずはアヤムゴレン・グプッ・キュウリ・タフ・テンペ・サンバルなどで、
gepukは牛肉を繊維にそって小さく切ったのをブンブの入ったココナツミルクに浸けてか
ら加熱したもの。切ったあとで肉を叩いて柔らかくするのでグプッという名称が付けられ
た。

元々、ナシトゥトゥッオンチョムに添えられたのはクルプッでなくてモチ米で作ったせん
べい状のopakだった。しかし昨今では、オパッの添えられたナシトゥトゥッオンチョムに
出会うことはほぼなくなっている。添えられているのはキャッサバのクルプッやムリンジ
ョのンピンだ。

ナシトゥトゥッオンチョムは家庭料理として出現したから、食堂やレストランでこれをメ
ニューに入れているところは少なかった。家庭でこの料理が作られなくなった昨今、これ
を食べさせてくれる食堂は数えるほどしかない。バンドン市内でこれを探しても、見つけ
出すのはたいへんに難しいという話だ。

そもそも、バンドンの若者たちにこの料理に対する興味が見られない。聞いたこともない
者や名前を聞いたことはあるがどこに売っているのかまるでわからないと言う者ばかりな
のだから。ガルーダ航空が2019年に国内線の機内食として使ったことがあるそうだが、
機内食を食べたいがために飛行機に乗るひとはあまりいないだろう。


スンダ人、中でも東プリアガン地方に住んでいるひとびとは昔から、水流のある場所に家
を建てて住んだ。その水流に池を作って水を溜め、魚を飼った。だから淡水魚がスンダの
家庭料理の中に必ずいる。

養魚池の小さいものはkulah、大きいものはbalongと呼ばれる。バロンはたいてい、家屋
の建坪よりも広い。スンダ人の田園生活でクラッやバロンはほとんど不可欠なものになっ
ているのだ。茶色がかった透明の水は絶えず移ろいでいて、その中で種々の魚が瞬く間に
成長する。[ 続く ]