「ジャワ島の料理(55)」(2022年01月26日)

そんな余裕のある土地を持てなかった家は、川や池を利用する。生け簀を川の中に設けて
捕まえた魚をその中で飼うのである。インドネシア語ではその種の生け簀をkerambaと言
う。魚が必要になればいつでも川へ行って持ち帰ることができる。場所によっては、川や
池の水面がクランバで覆われているような所もできる。

ジャティルフルJatiluhurダム湖が昔はクランバだらけになっていた。国の経済状況が悪
化すると、ジャティルフルのクランバが増加した。商業用に魚を肥育して売るひとが増え
るからだ。

しかし山上のダム湖を観光に訪れるひとにとって、クランバに覆われた水面はどうも見苦
しい。広い大自然の風景に浸りたいというのに、人工的なものがそこにたくさん混じって
いれば、大自然の価値は半減してしまう。だから州と地元行政にとって、ジャティルフル
湖を観光スポットとして売るためには、観光客の視野からクランバを隠さなければならな
いことになるのである。行政側はクランバ全廃方針で地元民に対処していたから、「クラ
ンバのある風景」はきっと大幅に狭まったことだろう。


タシッマラヤ県チアウィ村のンディンさんの家は田園地帯の中にある。クラッは家の裏手
にあって、家屋の面積とほぼ同じくらい広い。祖父がその池で魚を獲っていたから、池は
もっと以前に作られたものだろう、とンディンさんは言う。池の魚は一家が食べるために
獲るだけであり、獲って売るようなことは昔からしていないそうだ。

しかし販売用にバロンで魚を飼っているひとだってもちろんいる。仲買人が村々を巡回し
てやって来るから、かれらはその時に魚を売り渡すのだ。そういう家はたいてい別にクラ
ッを持っていて、自宅で消費する魚はクラッから獲っている。

割礼や巡礼などの祭礼の宴を開くときには、バロンの水を干揚げて育った魚を総取りする
こともある。バロンでは体重10〜15キロにもなるグラミを飼わなければならない。大
きく育ったグラミは祭礼の宴における最高の引出物になり、祝いに集まってくれた客人た
ちに食べてもらうことになるのだから。あの家のグラミは大きかったという噂話が祭礼の
印象を忘れがたいものにするにちがいない。

養魚池で飼われる魚の種類は多岐にわたっている。gurami, mujair, nila, sepat, tawes, 
rambak, nilam, ikan mas...しかしsepat, rambak, tawesなどは減少傾向にあり、代わっ
てlele dumbo, kakap tawar, patinなどの経済性を持つ外来種が増加傾向にある。言うま
でもなく、売るために育てているケースが多い。

もしも獲った魚が料理しきれなければ、スンダ人はkereを作る。ケレとはdendengのこと
だ。魚を半開きにし、塩とコリアンダをたっぷりとまぶして天日干しする。こうしておけ
ば日持ちがし、食べるときに炒めたり揚げたりするだけでよい。

ゴレン用の油がまだ高かった時代に、ペペスがスンダの家庭に一般化した。煮たり炊いた
りしたハウの薪の灰の熱さを維持させながら、ペペスを灰の中に入れておけば料理ができ
る。その熱を維持させるために、かれらは竹を30センチくらいに切って節を抜いた火吹
き竹を使っていたそうだ。

今では、自宅の池から獲った魚は石油コンロやガスコンロで蒸したり焼いたり揚げたりし
ている家庭が増えている。あるいはカストロル鍋を圧力鍋のように使って骨まで柔らかく
することも行われている。ペペスはワルン料理になって生き残る道を歩むのだろうか?


ンディンさんを訪れたコンパス紙取材班にスンダの田園生活の一端を見せるために、深夜
になってからかれはタウナギ獲りに出た。タウナギについては、拙作「インドネシアのウ
ナギ」をご参照ください。
http://omdoyok.web.fc2.com/Kawan/Kawan-NishiShourou/Kawan-42Indonesian-Eel.pdf
[ 続く ]