「女性の長寿はナンデか(後)」(2022年02月07日)

月経の後半期に女性の心臓の動悸が高まるメカニズムが寿命の差を生んでいるのではない
かという仮説もある。その動悸の強まりは軽い運動をしたときと類似の効果を人体に及ぼ
す。女性に心血管疾患が少ないのは、そのせいだ。

人体のサイズに原因を求める説もある。体形が大きいほど細胞がたくさん必要とされるた
めに、遺伝子に変化が起こりやすくなる。巨体はエネルギー燃焼も大きくなり、ネットワ
ークへの障害リスクが高い。平均的に男性のほうが女性よりも背が高く身体が大きいので、
長い期間での細胞の破損リスクは男性のほうが高くなる。


そんな諸説の中でずばり言うなら、男性の寿命に一番関係しているものは男性の性ホルモ
ンであるテストステロンなのだ。このホルモンは男性の第二次性徴の発現を促すものだ。

大朝鮮国(李氏朝鮮)の19世紀の王宮裁判所記録を調査したパク・ハンナムは、王宮の
宦官中で第二次性徴前に去勢された81人の寿命が70歳に達していたことを発見した。
国王を含めて普通の男性の寿命が50歳だった時代だ。

睾丸を除去する去勢手術が宦官の体内でのテストステロンホルモンの生産を極度に低下さ
せたのである。その結果宦官は、百歳の寿命を得る機会が同時代の一般男性に比べて13
0倍になっていた。

ユニバーシティカレッジロンドンのデイヴィッド・ジェムズも類似の論証を提示している。
20世紀初めの米国で、精神異常者は強制断種手術を受けた。平均して、かれらは一般男
性よりも長寿だった。この理論が有効なのは15歳未満で手術を受けた者である。

テストステロンはふたつの側面を持っている。人生の初期においては、身体を頑健にする
ために働く。人生の後期になると、男性にとって心臓病・感染症・ガンなどの病気にかか
りやすくなるのを促す。テストステロンは精子の生産を高めるが、前立腺がんに罹りやす
くする。若い時期に心臓の働きを助けるが、年を取ると高血圧や大動脈のコレステロール
蓄積を煽る。

本当は女性にもテストステロンがあるのだが、たいへん少量であるためにテストステロン
がもたらすリスクから免れている。女性は女性の性ホルモンであるエストロゲンをたくさ
ん持っている。これは人体細胞の破壊に対する回復薬であり、細胞にストレスを与える毒
素をきれいにするアンチオキシダントだ。

エストロゲンの少ないメスの実験動物は標準量を持っているメスより短命だった。去勢さ
れた男性に見られる現象と、それは正反対なのである。ネズミの卵巣を摘出すると、壊れ
たネズミの細胞は修復されることがなかった。

女性の寿命が男性より永い現象の謎に世界中の科学者が挑戦している。もしもその研究が
男女の寿命差を縮めることを目的にしているのであるなら、あなたはこの問題にどのよう
な姿勢で臨むだろうか?[ 完 ]