「ジャワ島の料理(69)」(2022年02月16日)

ナシクブリはインド料理のbiryaniに似たもので、ヤギのブイヨン・ヤギのミルク・サミ
ン油に種々のスパイスを加えてコメを炊いたものだ。サミン油とは牛・水牛・ヤギ・ラク
ダなどの動物の油脂から作られたもので、インドではギーghee と呼ばれている。そのア
ラブ語がサミンなのだ。この飯には炒めたヤギ肉が付くのが普通だ。飯の上には細切れの
ナツメヤシの実や干しブドウが振りかけられる。

ナシクブリは全国どこでもアラブ人社会でよく食べられているが、これがブタウィ料理と
言われるのは、ブタウィ人が他地域のムスリム社会よりはるかにこれを好んで食している
ためだろう。イスラムの祝祭日やクルアン読誦の集いにナシクブリは欠かせないものにな
っている。


ソトブタウィは一般的に、牛肉と牛の臓物のソトだ。ソトはニワトリ・牛・ヤギの三種類
が全国に散在し、それぞれのブイヨンを使った汁を具にかけて食べる。具は先に調理され
ているのが普通で、食べる前に熱い汁をかけ、飯のおかずにして食べる。ソトブタウィは
汁にココナツミルクが加えられ、具にトマトのスライスが入るのが特徴になっている。
ソトブタウィはまた、汁に牛乳が混ぜられるケースもあって、他地方のソトに見られない
独特のレシピを持っている。

ソトと名の付くブタウィ料理は他にsoto miやsoto tangkarがある。ソトミは麺とソトの
組合せだ。ソトタンカルは牛のあばら肉とあばら骨から取ったダシ汁に牛肉を入れて作る
料理だ。タンカルとはブタウィ語であばらの部位を意味している。


ガドガドは細かく切ったサラダ菜・キャベツ・カリフラワー・長豆・モヤシ・ニガウリ・
キュウリと茹でジャガイモ・茹で卵・タフ・テンペ・トウモロコシを合わせてからピーナ
ツのソースをかけたもの。野菜は茹でたり熱湯をかけることもあり、また生食にする場合
もある。スンダ料理のカレドッは生野菜で、ブタウィ料理のガドガドは茹で野菜だという
比較論が多いのだが、これもこだわりすぎると現実から遊離してしまうだろう。

ピーナツソースはピーナツ・ニンニク・トウガラシ・コショウ・ライム搾り汁・塩・ヤシ
砂糖で作る。ココナツミルク・ケチャップマニス・トラシ・バンウコンを加えることもあ
る。ガドガドソースの旨さの秘訣はピーナツが煎られたものであることで、油で揚げたり
炒られたりしていないのが重要ポイントなのだそうだ。

ガドはブタウィ語で「飯なしでおかずを食べること」を意味している。「Nggadoin aje.」
というブタウィ人の言葉を時に耳にすることがある。それは飯のおかずとして食べるのが
普通のものを、飯なしでおかずだけ食べるということを述べているのである。このブタウ
ィ語のガドはジャワ語に由来していて、ジャワ語ではgadho、動詞化するとnggadhoとなる。
スンダ語もgadoの意味は同じだが、動詞形はngagadoとなる。

インドネシア語でもgadoは同じ意味で「飯なしでおかずを食べること」なのだ。ところが、
gado-gadoという料理名から別の意味が派生した。ガドガドという料理が一見して種々の
内容が混じり合ったものに見えるため「ごちゃ混ぜ」という意味に使われるようになった
のだ。しかも適切で整然たる混じり方をしておらず、乱雑にごちゃごちゃと混じっている
印象が強いために、語感としては日本語の「ごちゃ混ぜ」が示すものに似通っている。用
例としてはbahasa gado-gadoやpasukan gado-gadoといった使われ方をよく耳にする。後
者のpasukan gado-gadoという形容からは闘いに負けそうな雰囲気が立ち昇って来る。

ガドガドのこの派生的な意味からgadoという単語を混ぜる意味に理解すると間違えるから、
気を付けたほうがよい。[ 続く ]