「ジャワ島の料理（７８）」（２０２２年０３月０２日） しかしスムルという名称の料理カテゴリーがインドネシアに出来上がったことは、インド ネシア人がそれを昔から伝えられてきた伝統料理と異なるものとして受け入れたことを示 しているように思われる。１９０２年に出版されたカテニウス著作のオランダ語レシピ本 Groot Nieuw Volledig Oost-Indisch Kookboekの中にはSolosche Smoor van Kip, Smoor Bandjar van Kip, Smoor Banten van Kip, Smoor Ajamなどのレシピが掲載されている。 東インドのオランダ系プラナカンたちが称したスムルという名称の料理がその邸宅の使用 人たちを経由してプリブミ社会にsemurとして浸透して行ったプロセスをそこから想像す ることができる。 プリブミ社会にとってのスムルは、濃い茶色の汁に牛肉が入っている料理という印象だっ たようだ。牛肉が水牛肉の代替を得、また社会ステータスが培った嗜好がカンビンやアヤ ムのバリエーションを生み、更には肉の代わりに魚・鶏卵・タフ・テンペ・ナス・ジェン コルといった変種がいろいろ出現した。 茶色の汁はケチャップマニス・赤バワン・玉ねぎ・ナツメグ・クローブが主素材で、肉と ジャガイモがそこに滲み込む。この料理がヌサンタラの各地に広まる中で、例によって地 方ごとのバリエーションが生じ、ジャワ島ばかりかカリマンタンやスマトラの各地でも違 った見かけと味覚のスムルができあがった。 ブタウィ料理とされているスムルにはsemur daging sapi, semur daging kerbau, semur tahu dan telor. semur jengkolなどがある。その中で水牛肉のスムルがブタウィ人の祝 祭に必須の料理という位置に置かれた。ルバラン・婚姻・割礼・赤児の髪切り・イスラミ ラジ・マウリッなどの祝祭にスムルクルバウがないと、まともな祝祭にならないとブタウ ィ人は言う。 それらの祝祭に必ず用意されなければならない料理や菓子はsemur kerbau andil, sayur asam betawi, pindang kerbau, dodol betawi, tape uli, kue kembang goyang, begana, akar kelapa, geplak, calabia, kue cucur, rengginang, gemblongなどだ。飲物は甘く ない茶やホットコーヒー。 普通、Idの礼拝の後やTakbiranの前に、自分のすぐ上の兄または姉にスムルクルバウアン ディル・クトゥパッ・タペウリ・クンバンゴヤン・アカルクラパ等をランタンに入れて届 ける。兄姉の最年長者は自分の親にrantanganを送る。 スムルクルバウアンディルと呼ばれるのは、一般庶民がアンディルという方法で水牛肉を 手に入れるのを習慣にしていたからだ。アンディルというのは、複数の人間が金を出し合 って何かを購入した時の、それぞれの持ち分のことだ。１千万ルピアの水牛を買った時、 百万ルピアを出した者のアンディルは１０分の１であり、５０万ルピアを出した者のアン ディルは水牛の５％になる。 通常、およそ２０家族くらいが集まってアンディランを行う。ルバランのためのアンディ ランでは、ラマダン月の前月であるシャッバン月半ばに行われるNisfu Syakbanの礼拝の あと、参加希望者がモスクで話し合いを行う。経済力のある者が自分のアンディルを決め、 その者はバンダルと呼ばれる。 毎週水曜の夜に開かれるクルアン読誦の集まりのときに、各参加者がアンディルを分割で 納める。買った水牛の屠殺解体作業がルバランの数日前にモスクで行われる。解体作業を 担当した者は頭と皮がもらえることになっている。 ブカシのジャティブニンに住む、あるブタウィ人の家では、ルバラン前日に２２軒の主婦 が集まってスムルクルバウアンディルを料理した。ブンブはコショウ・赤バワン・ニンニ ク・ククイ・ショウガ・ナンキョウ・ナツメグ・クミン・サラム葉・スレーと塩。サラム 葉・スレー・ショウガ・ナンキョウは叩き潰し、他のものは細かくすり潰す。それらを全 部混ぜて、厚さ５ミリに切った水牛肉と合わせ、水を少し加えてさっと炒める。そこに水 と塩とケチャップマニスを入れて一時間ほど煮る。水分が少なくなったらできあがりだが、 肉がまだ固いときはもう一度水と塩とケチャップマニスを入れて煮る。ブンブにシナモン ・クローブ・コリアンダーを加えてもよい。 ピンダンクルバウは水牛の胃や腸などの臓物で作る。ウコン・ショウガ・ニンニク・タマ リンドの実を、塩を加えてすり潰し、ブンブを作る。ブンブと臓物を合わせて炒めればピ ンダンクルバウができあがる。[ 続く ]
