「ジャワ島の料理(83)」(2022年03月10日)

値段を廉くするために、品質や味覚の決め手になるものまでが替えられる。卵は本来あひ
るの卵が使われるのに、それを市価の一番廉い養鶏卵に替える。アヒルの卵は一個750
ルピアだが、養鶏卵は一個450ルピアだ。ヤシの果肉のスルンデンに混ぜる干しエビも、
ルボンに替えられる。中には、エビの頭を干して粉にしたのを使う者もいる。ヤシの果肉
は煎ったものが使われるのに、かれらは簡単に炒るだけだ。七輪の炭はマホガニの木炭が
使われるが、かれらは廉ければ何でもいい。家屋を潰した廃材の木を炭にして使う者さえ
いる。

そんな風潮に対抗するため、ブタウィ人も価格競争への対応を迫られた。しかし味を犠牲
にすることはできない、とかれらは口をそろえる。結局はアヒルの卵バージョンと鶏卵バ
ージョンを用意して、廉いものもできるようにした。

ロッマニさんはしばしば、結婚式・会社や団体の創設記念・個人の誕生日などの大型パー
ティに招かれてクラットゥロルを作ることがある。そんな場では、ホンモノのクラットゥ
ロルを、腕によりをかけて作るのだそうだ。たいてい3〜4百人前の注文になる。つまり
4百個のアヒルの卵、モチ米10キロなど、材料を大量に用意しなければならない。モチ
米は一晩水に浸けておいて、それを会場に運び込む。そんな仕事が売り上げも大きく、し
かも利益が最高になるんだ、とかれは語っている。

ジャカルタフェアに参加して、会場の中で作り売りをすると、期間中の参加費用として4
0万ルピアを徴収される。ところが商売の場所はホールの片隅でなくて、ホールの外の構
内で、おまけに出口に近い裏庭の場所が与えられたりする。それに比べたら、パーティは
御の字とのことだ。


2006年のジャカルタフェアでは、クラットゥロル売りが4百人を超えた。もちろん、
全員が会場の中で店開きしたわけではない。そもそも会場内で店開きすれば出店費用が徴
収されるから、それを避けたい者も少なからずいる。おかげで会場周辺の道路脇のあちこ
ちにアンクリンを置いて座っているクラットゥロル売りの姿が、その年はやけに目立った。
会場入り口に至るすべての道路の、車が止まりやすそうな場所に必ず、アンクリンとしゃ
がんでいる男の姿があったのだから。

ジャカルタフェアがない時期は南ジャカルタのマンパン地区で鶏粥を売っている西ジャワ
州ガルッからの出稼ぎ者、ササさん47歳は、もう十年間ジャカルタフェアのクラットゥ
ロル売りをしている。かれはジャカルタフェア会場からかなり離れたクマヨラン中古車セ
ンター寄りの場所に店開きしているが、今年は全然ダメだ、と愚痴をこぼす。「これまで
の一晩20〜30万ルピアの売上には全然及びもしない。せいぜい5〜6万ルピアだ。ジ
ュラガンにストランを納めなきゃいかんというのに。」

記者がインタビューしたのは土曜日夜22時ごろ。フェア会場が閉まるまでにまだ少し時
間がある。かれのアンクリンの荷台に山積みされた卵はまだたっぷり残っているし、ブン
ブ類の容器の中身もいっぱい詰まっている。

過去の実績では、フェア期間中の純益が2〜3百万ルピア手に入った。今年のこんな調子
では、赤字になる可能性すらある。故郷に帰って妻子に渡せる金がたとえゼロでも、自分
が帰るための交通費だけはなんとか稼ぎたいというのがかれの願いだ。


西ジャワ州チマヒからフェア期間だけ出稼ぎに来ているダヤッさん38歳は、今年はみん
な土日の売上を期待していると語る。「毎日、卵を150個持って来るが、月曜から木曜
までは一日にせいぜい50個売れる程度だ。オレの利益は鶏卵で一人前千5百ルピア、ア
ヒルの卵で2千ルピア。今年の売れ行きが悪いのは、ワールドカップと時期が重なったか
らじゃないかな。みんな家でテレビを見てるんだろう。」

かれはジャカルタフェアの時期だけ、ジャカルタに出て来てクラットゥロル売りになる。
他の時期はチマヒでシオマイバンドンを売っている。チマヒでの稼ぎは妻子を食わせるだ
けのものでしかなく、年に一度のジャカルタフェアで一家の経済面の余裕を作り出してき
た。

会場の外で売っている者たちは、あまりにも売れないのに業を煮やして、値引きをする者
が続出した。アヒルの卵を使ったものは8千で鶏卵は7千ルピアという最初の値段は、今
や7千と6千ルピアになっている。フェア会場の中で売られているものは一人前が1万ル
ピアだ。[ 続く ]