「ジャワ島の料理(88)」(2022年03月17日)

ドドルチナあるいはクエチナと呼ばれるクエクランジャンも、ドドルブタウィと同じよう
な季節商品だ。もちろん時期は異なるのが普通だ。イムレッを祝う華人系の家庭では、祝
祭の十五日間、クエクランジャンは家の中に飾られるだけで、食べない。それを食べるの
はチャップゴメの時なのである。


クエクランジャンは陰暦正月のものであり、ドドルブタウィはブタウィ人がラマダン〜イ
ドゥルフィトリのシーズンものとしている通り、イスラム大祭の食べ物とされている。と
ころが面白いことに、陰暦正月を祝う華人の中に、ドドルブタウィをイムレッの祭事品に
しているひともいるのだ。これこそ、文化融合の一形態なのではあるまいか。

タングラン市ネグラサリ郡ピントゥアイル地区に住むイイン・ラウ・キムさんは、イムレ
ッの二十日くらい前から入って来る注文に応じて、クエクランジャンの生産を始める。そ
の時期になると、家の中が工場に変わってしまうのだそうだ。家の表庭と裏庭に仮設炉が
四つ作られて大鍋が置かれ、10人ほどの男たちが忙しく立ち働き、大鍋の中身がかき混
ぜられる。家のテラスではやはり十数人の女たちが、クエクランジャンの容器を用意して
積み上げている。出来上がった商品は家の中に所せましと並べられる。家の中がそんなあ
りさまになるのは一年に二回だけ、イムレッとイドゥルフィトリの季節だけだ。

かき混ぜられている大鍋の中身は大部分がクエクランジャンなのだが、一部はドドルブタ
ウィなのである。その年のイムレッ用に、かの女はクエクランジャンを1千キロ、ドドル
ブタウィを3百キロ生産した。ルバランシーズンの場合はその比率が逆転するが、それで
もクエクランジャンを2百キロは生産する。


タングランのクエクランジャン生産者のひとりで、Nyonya Hidupを商標にしているジャヤ
さんも、イムレッとルバランの時期にクエクランジャンとドドルブタウィを生産している。
そのふたつの祝祭で生産品の比率が逆転するのは、どの生産者も同じだ。

しかしいくら作り方がよく似ているからとはいえ、ルバランの時期にクエクランジャンを
ついでに作っているわけでは決してない。それだけの需要があるから作られているのであ
る。多分、華人プラナカン層がメインなのだろうが、イスラムの祝祭に華人正月のシンボ
ルであるティクエ甜?が食され、祭りに華やかさが添えられているのだ。人間の営みを対
立構図でしか見ることのできない者には、祭りというものの真髄をわがものにする資格が
ないということをそれが物語っているかのようだ。


ドドルの他に、ルバラン祝祭に欠かせないおやつはクンバンゴヤン・タペウリ・アカルク
ラパまたはルンギナンだ。クンバンゴヤンの作り方はまず、米粉・小麦粉・サゴ粉各1キ
ロ、鶏卵4個、砂糖5百グラム・ヤシの実半個分を搾ったココナツミルク・小さじ三分の
一の塩・コップ3杯の水を混ぜてドウにする。深鍋で油を熱し、型をその油にさっと浸し
てからドウに差し込み、それを再び熱い油に入れる。型に付いたドウは自然と型から抜け
て油の中に落ちて行く。

アカルクラパの場合は、米粉とモチ米粉各1キロ・バター250グラム・ヤシの果肉フレ
ーク一個分・鶏卵4個・小さじ四分の一の塩・コップ2杯半の水を混ぜてドウを作る。ド
ウを一方の端が小さい穴になっている筒に入れ、熱した油の上でドウを押し出す。ドウは
油の中に落ちて長い揚げ菓子になる。

クンバンゴヤンとアカルクラパはルバラン前夜祭のタッビランの日から二日前に作られる。
タペウリは作ったその日に食べなければウリが固くなってしまうために前もって用意して
おくことができないが、揚げ菓子は何日も持つから大丈夫だ。

ウリはまずモチ米5リッターを洗ってから水に一時間浸けておく。水をよく切ってから一
度蒸し、ヤシの果肉フレーク4個分を混ぜて均一にしたあと再度蒸す。蒸し上がったら潰
す。バナナ葉の上に潰したウリを置いて冷ます。

tape ketan hitamの作り方は、黒モチ米2リッターと白モチ米1リッターを混ぜて1時間
半水に浸ける。それを2時間蒸してからバナナ葉の上に置いて冷ます。それを器に広げ、
テンペ発酵菌をふりかける。その後、上をバナナ葉で覆ってから器のふたをする。三日間
放置しておくと、タぺクタンヒタムができあがる。タぺを先に仕込んでおき、食べる日に
ウリを作って出来上がったタぺと合わせるようにしなければならない。[ 続く ]