「セム語クップル(前)」(2022年04月07日)

ライター: 語義傾注者、サムスディン・ブルリアン
ソース: 2017年2月4日付けコンパス紙 "Dari Kuppuru"

kafir(訳注:イスラムのアッラーと預言者を信じるという絶対真に違背する者、つまり
異教徒・イスラム教徒不信心者・無信仰者を指している)の語義はどこに由来していたの
だろうか?

歴史の遠い初期にセム系言語の中で、なにかの表面で手を動かす動作を表現する言葉が使
われていた。そこからふたつの主要語義が生まれた。ひとつは、表面から何かが落ちるよ
うにこすること、たとえば汚れた層を取り除き、掃除すること。もうひとつは表面が輝き
のような何かを得ること、たとえば色を塗ったり、層を上乗せすること、つまりは「磨く」
の意味だ。

その言葉をアルファベット転写するとk-p-rまたはk-f-rになる。ふたつになる理由は、原
語ではfとpの音が同じ文字で書かれたために、実音がどちらの音だったのかを文字から確
定させることができない点にある。またセム語系の文字はすべてが子音で構成されていて、
母音が文字で示されなかった。

ノアの長子Semの名を採ったSemit(セム系、英語はSemitic)語とは中東の諸民族の間で
広く用いられた言語系統である。書かれたものとしては、5千年前に人類文明の夜明けと
なってユーフラテス川とティグリス川に挟まれた土地に出現した。イスラエルのヘブライ
語やアラブ語をはじめ、いくつかの言語を含んでいるセム系言語の特徴のひとつは、動詞
の語根が三つの文字を組み合わせて作られることである。

歴史の中で最初に知られたセム語はアッカド語だった。アッカド人はメソポタミア渓谷部
で4千年以上前に繁栄の頂点を築いた。かれらは今のイラク・クエート・シリア・レバノ
ンとトルコやイランの一部、つまり肥沃な三日月地帯東部を2百年間支配した。ユダヤ・
キリスト・イスラムの三宗教でたいへん崇められているアブラハム、またはイブラヒム、
の先祖はアッカド帝国の重要な商港都市だったウルに興った。


アッカド語には、撫でる・こする・きれいになるように拭く・掃除する・消すなどを意味
する日常用語としてkuppuru, kaparuあるいは他の語形の語彙があった。また陶器作りの
技術用語として磨くの意味も表した。宗教用語としてクップルは穢れや罪を消して清・純
・聖になることを意味し、その名で呼ばれる宗教儀式のひとつになった。アッカド文書に
描かれた罪を清める儀式では、手を洗い、神をまつる社と器具類を洗い、香を焚き、穢れ
た物を砂漠に捨て、雄ヤギを生贄に屠り、その血を社に塗りつけて浄化するのである。そ
こには穢れが落ちるようにこする行為があり、清いものを塗りつけて穢れを覆う行為があ
り、前の姿が新しく見えるようにする要素もある。その儀式に見られるような、穢れとは
洗ってきれいにできるものであって、それがなされなければならないこと、人間の暮らし
は穢れや死をもたらす罪に対して生贄の血をもって、あたかも負債を返すように贖罪を行
う必要があること、などのコンセプトはセム系の諸信仰を受け継いだ現代のたくさんの社
会と人々の間で、種々の形式や教義となって維持されている。

われわれにとって多分あまり違和感を感じさせないクップル儀式の一形態は、儀式を通し
て一頭のヤギに人間のあらゆる罪を乗り移らせ、その生贄を屠って死骸を川に投げ捨てる
ような形式のものだろう。

ヘブライ文化に伝わった儀式の中では、屠られるヤギとは別に一頭の雄ヤギが死の待ち受
けている砂漠に放たれる。人間の罪を背負わされたその雄ヤギはそんな形で罰を与えられ
るのである。英語スケープゴートの由来がその故事だ。


k-p-rまたはk-f-rはたくさんの語義に発展して、表面にひとつの層を浮き出たせることに
はじまり、表面を覆い隠すことに至った。宗教的に覆い隠したりこそぎ落としたりできる
ものは穢れや罪だけでなく、真理もそうなのである。そのようにして相反するふたつの意
味が生じた。真理や信仰が隠されるとき、それはネガティブな意味になるが、善でないも
のが覆われるとき、それはポジティブなものになる。同一の言葉が時にはさまざまな意味
を持つことが起こる。その中に、互いに相反する意味が出現することもあるのだ。
[ 続く ]