「ソトの世界(3)」(2022年04月18日) ソトには名称までバリエーションがあって、sroto, tauto, sauto, cotoなど地方によっ て呼び名が違っているものすらある。 例によって、ソトという言葉は中国語源だという話もあるにはある。さるフランス人学者 は草肚がソトの起源だと書いている。別の説では焼肚が語源ではないかと述べられている。 肚という漢字は臓物を意味している。草肚は牛の胃であり、焼肚は臓物を炒めたり茹でた りした料理だ。 草は北京語でcaoと発音されるが、広東はtau、客家はcau、福建はchhauやchho、呉はtshau という発音になる。肚は北京語でduだが、広東語でtou、福建語でtoなので、草肚の広東語 発音はtautouになってソトのバリエーションのひとつによく似ているし、福建語もchhoto となってバリエーションのもうひとつに合致する。 焼の発音は北京語がshaoだが、広東siu、客家sau、福建sio/siau、呉sauなどであり、こ れもsaotoに似たものがいくつか得られる。まあ、この種の語源探しは正解の確証が得ら れない言葉の遊戯と思って見ていればよいのではないかとわたしは日ごろ思っているの で、かもしれない論で接していればどうだろうか? デニス・ロンバールによれば、17世紀にスマラン華人の間で一般的だったcaudo(草肚) というスープがソトの起源だったそうだ。しかしインドネシアの料理研究家の中に、ソト の起源はこれだという説を立てているひとはいない。 研究家たちはそれぞれが各地に持っている人脈から情報を入手する。トゥティ・スナルデ ィ、ボンダン・グナワン、ウイリアム・ウォンソなどのインドネシアを代表する大家たち も、ソトの起源ははっきりしない、と異口同音に語っている。 トゥティはかつて、ソトを含むいくつかのインドネシア料理の由来を調査したことがある。 情報を求めて各地の人脈を頼ったが、ソトについては何ひとつ得られなかったそうだ。 インドネシア料理の隅々まで知り尽くしているようなボンダンも「インドネシアの伝統料 理と言われているものの多くと同様に、ソトの由来も闇の中だ。」とコメントしている。 ガジャマダ大学人類学者は、ソトはインドネシアの伝統料理であり、西洋のスープから借 用されたものではない、と断言する。各地方各種族の文化とヌサンタラにやってきた異民 族文化の影響が渾然一体となったものがソトなのだそうだ。麺や春雨は中国文化、ウコン はインド文化。そのような外来文化とヌサンタラの諸種族の文化が混じり合い溶け合って 生み出されたダンドゥッのようなものだ。ダンドゥッの起源と主張されているものは複数 あるが、いずれもダンドゥッの強固な土台と感じられるものではない。ソトもそれと同じ であり、われわれがダンドゥッを楽しむように、ソトを楽しんでいればそれでよいのだ、 とかれは述べている。 昔の文化の伝来は人間の移動と共に起こった。ソトがヌサンタラの各地に存在しているの は、ソトを料理できる人間がある地方から別の地方へ行ってソトを作ったからだ。そして その地方でソトのローカル化が起こった。ローカル化が起こるのは、その地方の住民が外 来物を受け入れたために起こるケースが普通だろう。各地にローカル版があるソトは、ず っと昔からヌサンタラの国民料理になっていたと解釈して間違いあるまい。 ソトは先ず、ブイヨンの種類で区別される。 *[soto ayam]* スパイス豊かな黄色っぽいチキンブイヨンスープに鶏肉とロントンやクトゥパッあるいは ビーフンや春雨と野菜が入ったもの *[soto ceker]* ソトアヤムより透明感のあるスープで、赤バワン・ニンニク・ククイ・コショウ・スレー ・ウコンなどのスパイスが使われ、鶏足・キャベツ・セロリ・ビーフンが入る。ココナツ ミルクが混ぜられることもある。チェケルはニワトリの足のこと。[ 続く ]