「ソトの世界(5)」(2022年04月20日) 地方別のバラエティはたいへん豊かだ。地名を冠したソトには次のようなものがある。 *[soto Ambon]* ウコン・ショウガ・ナンキョウ・ニンニク・スレーその他のスパイスが豊富に使われたソ トアヤム。具はモヤシ・鶏肉・ビーフン・セロリ葉・ポテトスティック・ポテトのプルク デル。バワンゴレン・ケチャップマニス・サンバルが加えられる。普通、白飯と一緒に食 べる。 *[soto Ambengan]* スラバヤのアンブガン通りでソトアヤムを商っていたワルンが評判を取り、所在地の地名 が店名になった。上で述べたソトバンコンと似たようなケースだ。 店主のパッサディがアンブガン通りの商店の軒先、いわゆるカキリマでソトラモガンの商 売を始めたのは1971年。スラバヤ市内で評判を呼んだことから、ひとびとはパッサデ ィの店をソトアンブガンと通称した。そのころ、市行政の高官たちも食べに来たが、自動 車でやってきた高官たちが商店の軒先のベンチでソトを食べる姿が恥ずかしかったらしく、 駐車している自動車のナンバープレートを覆って通行人の目にさらさないようにしたそう だ。 パッサディは1989年にジャカルタに進出して、南ジャカルタのウォルテルモギンシデ ィWolter Monginsidi通りに支店を構えた。この店はエアコン完備の立派なレストランだ ったから、ジャカルタの高官は恥ずかしがる必要がなかった。スラバヤ出身の歌手、イタ ・プルナマサリはスラバヤ時代からソトアンブガンのファンで、ジャカルタでの歌手生活 の合間にしばしばウォルテルモギンシディ通りの店にやってきたそうだ。 郷土料理がジャカルタに進出したとき、ジャカルタで手に入りにくい素材の問題や、ジャ カルタ住民の舌の好みが郷土人のものと違うという点を配慮して、ジャカルタ風の味覚に 合わせる店も少なくない。しかしパッサディの考え方は違っていた。スラバヤのソトアン ブガンはこれなんだ、という信念をかれは貫き通したのである。ジャカルタのソトアンブ ガンはもちろん、だれが食べに行こうが不機嫌な顔をして店を出て来る客はいない。 *[soto Bandung]* 汁が透明なソトサピ。大根・トマト・揚げアズキ豆が具に加えられているのがソトバンド ンの特徴。 *[soto Banjar]* 南カリマンタンのバンジャル族が生んだ透明な汁のソトアヤム。ブンブには赤バワン・ニ ンニク・コショウが使われ、シナモン・ナツメグ・クローブなどのスパイスが加えられる。 ウコンを使うひとは少ない。ブンブは少量の植物油かサミン油で炒めてからニワトリのブ イヨンに混ぜる。牛乳を混ぜて少し濁った汁にすることもある。スパイスは出来上がった ソト汁から抜かれるので、具と一緒に口に入ることはない。 具は裂いた鶏肉にプルクデルや茹でポテト・茹で卵・ニンジン・クトゥパッあるいはロン トンが一般的だ。 飯にソトバンジャルをかけたものはnasi sopと呼ばれる。ナシソップの場合はブンブに加 えられるスパイスが八角・クローブ・シナモン・スレーに変わり、そしてポテトのプルク デルが添えられる。飯にソト汁をかけたものはソップと呼ばれ、ロントンにソト汁をかけ ればソトと呼ばれるというのがカリマンタンの常識になっているそうだ。 このソトバンジャルがカリマンタンダヤッ族一円に広まったため、東カリマンタンでも中 部カリマンタンでもソトバンジャルが作られている。ただしダヤッ人の中にはそれをソト バンジャルと呼ばないひとも少なからずいるようだ。[ 続く ]