「ソトの世界(6)」(2022年04月21日) バンジャル人とダヤッ人の接触は17世紀ごろから始まっていた。バンジャル人は舟にさ まざまな日用品を積み込んで川をさかのぼり、内陸部のダヤッ社会に向かった。石ケンや 布類や台所道具あるいは砂糖などの品々をダヤッ人と交易し、内陸部で穫れる米・魚・コ プラ・樹脂・籐などを持ち帰った。交易の旅は何カ月もかかるのが普通だ。そんな旅がバ ンジャル人の料理や言語をダヤッ人に伝えた。 おまけにバンジャル人の中にダヤッ社会に入って暮らす者が出現するようになり、そのよ うな人間が増加して来ると、バンジャル人はまとまってカンプンに住んだ。バンジャルマ シンから遠く離れた都市でバンジャル人のカンプンがある所も少なくない。地縁関係がダ ヤッ人との間に育まれ、バンジャル人がワルンソトを開けばダヤッ人も食べに来た。 ダヤッ人の家庭では、ソトの作り方が何世代も昔から、母から娘に伝えられてきた。だい たいどの家でも、ソトバンジャルと似たようなものが作られる。もちろん、わが家の味を 工夫する主婦にも事欠かない。 元中部カリマンタン州知事は、自分の妻もソトバンジャルと同じようなものを作る、と語 る。ロントンも入り、プルクデルと春雨も使われているが、味が一般のソトバンジャルと はちょっと違う。だから妻はソトバンジャルと呼ばないで、ソトイスタナイセンムランと 呼んでいる、という元州知事の話だった。 別のダヤッ人主婦は、自分もロントンとポテトのプルクデルを使ってソトバンジャルと同 じようなものを作るが、自分はククイを使わずにウコンを少しだけ使って透明な汁にして いる、と語っている。 昨今では、バンジャルマシンのワルンソトバンジャルの中に、牛乳でなく甘い練乳を加え る店がちらほらと出現しているらしい。そしてサマリンダのワルンソトの中にも、それに 追随している店があるそうだ。 *[sroto Banyumas]* バニュマスのソトはスロトと呼ばれる。正確にはバニュマス県プルウォクルトの東に隣接 するソカラジャ郡の地名を取ったsroto Sokarajaがこのソトの名称だ。ソトアヤムとソト サピの二種類があり、クトゥパッ・ビーフン・ネギ葉にソト汁をかけ、ピーナツのサンバ ルを加える。ピーナツのサンバルがスロトの特徴になっている。 スロトにはアヤム・サピ・その混合という三種類がある。ブンブはソトの基本ブンブにス レーが加わる。ブンブカチャンを使うプチュルはバンウコンを使うのが標準だが、スロト にバンウコンは使われず、赤バワン・ニンニク・トウガラシの組合せが基本になっている。 *[soto Betawi]* 一般的にソトサピが基本で、牛肉と牛の臓物が具に入る。具にはトマトのスライスやネギ 葉、そしてフライドポテトが入ることもある。汁にココナツミルクが使われるのが特徴だ。 更に牛乳を混ぜるひともいるが、調理人によっては「カンビンの場合にココナツミルクに 牛乳を足すことはあるが、サピはココナツミルクだけだ。」と確信を持って言うひともい る。 だから、ソトブタウィのソトアヤムバージョンもあれば、ソトカンビンのバージョンも存 在する。地名を冠したソト○○は牛だ・鶏だ・ヤギだ・豚だなどと単純に言えないのがこ の世界なのである。 臓物は胃・腸・肺・舌・皮・筋・脳・ハツ等々が選択できる。ひとによって各部位の好き 嫌いがあるケースが多いので、臓物の○○は入れるなという注文を調理人に言う客も少な くない。臓物の仕込みは数時間かけて茹でてから、油で炒める。臓物を茹でた水は必ず捨 てるそうだ。コレステロール湯を飲まされたら、その客は二度と来なくなるだろう。 [ 続く ]