「ソトの世界(7)」(2022年04月22日)

一般的傾向として臓物を好まない客が増えて来ているので、肉と皮を増やす傾向が強まっ
ていると調理人も語っている。ジャカルタにソトブタウィのワルンは山ほどあるが、まっ
たく同じものはひとつもない、と調理人たちは主張している。たとえまったく同一の素材
が用意されても、ブンブの調合が違い、素材を処理するスタイルが違う。最終的に調理人
の腕と味覚センスが差を作り出してしまう。

だからジャカルタの一食堂でソトブタウィを食べた体験を持ってソトブタウィの内容を定
義付けるのは、群盲が象を撫でる図に似てくるだろう。ヌサンタラ中の地名を冠したソト
○○についても同じことが言えるにちがいあるまい。人間の営みというのはそういうもの
なのであって、なにごとも区分名称に従って画一化すると論理思考は単純明快になるもの
の、真実の姿から離れていくことになりかねない。

*[soto Bogor]*
ボゴールのソトはsoto beningとsoto kuningの二種類がある。ソトバンドンのような大根
や揚げアズキ豆はどちらにも入っていない。
基本はどちらもソトサピであり、ソトブニンはナツメグ・カルダモン・クローブ・シナモ
ンがブンブに使われる。一方のソトクニンの方は、ウコン・サラム・スレー・ショウガ・
ココナツミルクを使う。
ボゴール市内でそれぞれのワルンは特定エリアに集中する傾向があり、客はそのどちらか
を食べたくなったら、そのワルンが集まっている地区へ行って良さそうなのを探せばよい
から便利だ。
たとえばソトクニンはPasar Anyar, Jl Dewi Sartika, Jl Pengadilan, Jl Suryakencana, 
Jl Raya Pajajaran。ソトブニンの場合はJl Pasar Mawar, Jl Pejagalan, Jl Pengadilan, 
Jl Raya Pajajaranなどだ。

*[soto Kediri]*
普通のソトアヤムにココナツミルクが混ぜられたもの。最初、クディリ市内のタマナンバ
スターミナル周辺にワルンが林立したためにsoto Tamananという名でも呼ばれている。ま
たボッイジョ橋周辺でも売られていたためにsoto Bok Ijoという異名も持っている。

*[soto Kemiri]*
中部ジャワ州パティ県サリレジョ村クミリ部落の出身者が考案したソトアヤムのバリエー
ションだと言われている。そしてその名の通り、クミリ(ククイ)がブンブの中に使われ
ている。クミリは他の種類のソトにも使われているから、わざわざそれを看板にするよう
なことはしないだろうと思われるので、地名と考える方が妥当な気がする。ところが、と
ころがだった。
ソトクミリ誕生譚には、クミリが立役者になっていたことが記されている。一般庶民が貧
困の中で暮らしていた時代、牛も鶏も容易に手に入らないから、クミリでダシを取ったそ
うだ。そしてダシ汁に種々のブンブを加えてからわずかばかりのココナツミルクを混ぜ、
お椀には飯とモヤシ、セロリ・バワンゴレンといささかの鶏肉をむしったものを入れ、ダ
シ汁をかけて食べた。食べた者は目を見開き、相好を崩したという。
ブンブには、ククイの他に赤バワン・ニンニク・コリアンダー・クミン・コショウ・ミカ
ン葉・ナンキョウ・バンウコン・ショウガ・ウコン・ヤシの実・トウガラシ・トラシ・塩
・砂糖と多彩なスパイスが使われる。このようなブンブの使い方はソトクドゥスに似てお
り、また他地方のソトにも類似のものがある。そして中部ジャワ料理の傾向に即して、甘
味がある。
それがソトクミリという名の、パティ県の郷土料理になったのである。言ってみれば、冷
や飯に温かい味噌汁をぶっかけて食べる作法のようなものかもしれない。
今の時代は、ワルンでもそんなものを客に食べさせるところはない。椀の中身は同じよう
なものでも、別皿に堂々たるアヤムゴレンやテンペゴレンがついてくる。椀の中にニワト
リの裂き肉がちょっとしかないのは、誕生譚の伝統を維持しているからだろう。[ 続く ]