「黄家の人々(6)」(2022年06月03日)

オランダ人が宿屋に帰ったあと、ウイ・セの関心は木箱の中の黄金コインに移った。本当
に箱の中身は全部黄金なのだろうか?大量の黄金が暗闇の中でどのような輝きを放つのか、
一度見てみたいものだ。しかし箱には鍵がかかっており、それを開く鍵はオランダ人が持
っている。だが錠前破りという手段で鍵を開くことも可能だ。ひそかにあの箱の中を見る
だけなら、犯罪にはならない。さあ、どうやって鍵を開こうか?

夜が更けて、人間が立てる物音もほとんどなくなりかけたウイ・セ宅の界隈で、ウイ・セ
の家の台所だけが食器を洗ったり片付けたりする物音がしている。客人への饗応が夜中ま
で続いたからだ。そしてウイ・セはふと、台所の下働きをしている使用人ドロノのことを
思い出した。ドロノには錠前破りの前科があったぞ。

ウイ・セは身の回りの雑用係使用人に、ドロノをここへ呼べと命じた。しばらくすると使
用人のひとりがやってきて、ウイ・セの座っている椅子の傍まで来て床に胡坐で座った。

「おまえの今の仕事は何だ?」
「料理人の手伝いや皿洗いです。」
「そうか。おまえはここで働く前に流刑されたことがあるというのは本当か?」
「へい。」
「ご赦免のあと、ここで働くまでの間、何をしていた?」
「何もしちゃおりません。」
「そんなことはないだろう。お前は鍵作りをしていたという話だが、本当か?」
「へい。」
「鍵を閉めた箱があって、それを開ける鍵をなくしてしまった。お前にそれを開くことが
できるか?」
「へい、たいていのものなら。」
ウイ・セはすぐに立ち上がると、ドロノに付いてくるように言い、自分の部屋に入った。
「これがその箱だ。」
「ああ、こりゃ簡単だ。黄銅で合鍵を作るだけで開きます。明日一日で合鍵を作りますか
ら、夜には開けます。」
「確かにできるな?」
「もちろんでさあ。」

ウイ・セはドロノに命じた。明日中に合鍵を作って、夜になったら持って来い。この話は
絶対誰にも知られないようにしろ。


翌日の夕食が終わったあと、ウイ・セがひとりでタバコを吸っていると、ドロノがやって
きて床に座った。ウイ・セが声をかける。
「どうだ?できたか?」
「へい。」
「そうか。箱を開くのはみんなが寝静まってからだ。この話は絶対に誰にも知られないよ
うにしろ。」
「へい。」

ウイ・セの家では毎夜、ガムラン楽団に演奏させている。ドロノは時間待ちの手すさびに、
楽団に加わって太鼓を叩きはじめた。その演奏が素人芸でないことにウイ・セは驚いた。
11時ごろまでガムラン演奏が続けられ、音楽も終わりになった。家の中はみんなが寝静
まり、物音は聞こえない。しかしウイ・セはまだ待った。壁のヨーロッパ製時計が12回
鐘を鳴らしたとき、ウイ・セは立ち上がった。

ドロノを連れて部屋に入ったウイ・セは灯りを消し、扉を全部閉めた。そして箱の鍵を開
くよう、ドロノに身振りで促した。ドロノは昼間作った合鍵を差し込んで回す。カチッと
音がして、鍵が開いたのが判った。ウイ・セはドロノに場所を譲らせてから箱のふたをし
ずかに持ち上げた。[ 続く ]