「ヌサンタラのお粥(8)」(2022年06月13日)

ティヌトゥアンがマナドの町に頻繁に姿を現すようになったのは1970年とも1981
年とも言われていて、比較的新しい大衆料理という印象を抱かせてくれる。やはり朝食と
してマナドの街中に広まり、ブブルのワルンがあちこちに出現した。しかしブブルは万能
食なのであり、ティヌトゥアンも一日中いつでも食べることができる。

ブブルマナドの特徴は、粥がおじやのように柔らかくした飯状になっていることだ。そこ
に種々の野菜が混ざって煮込まれ、カツオやマグロの燻製・プルクデル・サンバル・揚げ
豆腐などをおかずにして食される。

ブブルに混じる野菜類はカボチャ・キャッサバ・ほうれん草・空心菜・gedi葉・トウモロ
コシ・バジルなどだ。煮上がるのに時間がかかるものから粥の鍋に入れていかなければな
らない。葉野菜は火を止める少し前に入れるのが秘訣だそうだ。

ゲディという植物は学名をAbelmoschus manihotと言い、北スラウェシのひとびとは昔か
らその葉を薬用植物として使っていた。特に糖尿病に大きい薬効があると信じているひと
が多い。ブブルマナドにそのゲディ葉が入らないとブブルマナドにならないと語るひとも
いる。マナド人にとってゲディ葉は郷土の味覚をもたらすものかもしれない。


北スラウェシ州マナド市内ワケケ通りは、まだ朝だというのに駐車する自動車で混雑して
いる。朝から開店している食堂に、市民がブブルマナドを食べに来るのだ。そのうちの一
軒、カフェデゴデゴの表も、駐車している車が列をなしている。

やって来た客の一行がしばらく待つうちに、テーブルの上にティヌトゥアンが並べられた。
バジルの香りが立ち昇り、黄色い汁に包まれた粥の中にはカボチャや粒トウモロコシ、そ
して緑野菜がたっぷりと混じっている。野菜類が新鮮な緑色を保っているのは、調理の仕
方に秘訣があるのだ、と店主のデシさんが洩らした。

カボチャ・トウモロコシ・イモは粥の中で煮込み、濃く粘り気のある粥にする。注文を受
けると、その粥の鍋から粥を取り出して人数分を別の鍋に入れ、水を加えて熱する。緑野
菜はその加熱を終える少し前に入れるのだそうだ。客の中にはほうれん草とカンクンを入
れないように求めるひともいる。

ティヌトゥアンは普通、他のおかずと共に食される。その筆頭はカツオやマグロだ。他の
塩魚もある。プルクデルも広く好まれている。タフ・テンペもよく合う。そして何よりも
マナド人の食に欠かせない辣味として、sambal roaやsambal bakasangが登場する。サン
バルロアはロア魚を混ぜたサンバル、サンバルバカサンはカツオの内臓を発酵させたバカ
サンの混ぜられたサンバルだ。


全長およそ3百メートルのワケケ通りには7軒のティヌトゥアン食堂があって、ティヌト
ゥアンセンターのひとつとして、マナド市民や観光客の間で有名だ。ワケケ通り住民のひ
とりデシさんの回顧談によれば、その通りで最初にティヌトゥアンを売り始めたのはタン
テスリで、1984年に小さいワルンを開いたそうだ。そして、それを見倣って他のタン
テたちが次々にワルンを開いた。

カフェデゴデゴになっているその家はデシさんの実家だった。その家を売るという話にな
ったとき、かの女はそこを食堂にしようと考えて、2007年12月28日にカフェデゴ
デゴをオープンした。デゴデゴとは木製のベンチのことで、マナドの庶民が集まって世間
話に興じるときに座るのがたいていデゴデゴだ。

カフェデゴデゴはティヌトゥアンに特化した食堂ではない。メニューにはmi cakalangやes 
brenebon、そしてマナドで必須のpisang goreng sambal bakasangも書かれている。
[ 続く ]