「ヌサンタラのお粥(17)」(2022年06月24日)

ムティアラ粒を取り出さなければ、カンジがもっと水に溶けだして、粒が粘り、互いにく
っつきあう。その方が好きなひとは取り出す必要がない。

次にココナツミルク・パンダン葉・塩を混ぜて加熱し、ココナツミルク汁を作る。器の中
でムティアラ粒とココナツミルク汁を合わせて供する。熱い状態でも、冷めた状態でも、
特に選り好みはされない。


ブブルの主材であるサグムティアラはその名称で市販されている。全部白色の粒になって
袋に入っているものもあれば、赤・白・緑の粒が混じっているものもある。最初はサゴ粉
(サゴと言ってもアレンヤシの幹から取ったでんぷんのsagu arenだったのかもしれない)
で作られていたと思われるのだが、昨今はほとんどがタピオカ粉で作られているらしく、
sagu mutiaraというインドネシア語に対応する英語はtapioca pearlになっている。英語
話者の中には、サグムティアラを英訳してsago pearlと言っているひともいるようだが、
素材はまず間違いなくタピオカのはずだ。

球形のサグムティアラと少し異なる角形や菱型の粒も、pacar cinaという名称で市販され
ている。こちらもタピオカ粉で作られていて、ムティアラ粒よりもっと多色的印象が強い。
作り方もサグムティアラとそっくりであるために、サグムティアラとパチャルチナはまる
で同義語扱いされ、ついには袋に入ったタピオカ粉の形態や色使いとは無関係に名称の相
互乗り入れが起こり、どちらもがともかくどちらかの名称で市販されているという現象に
なっている。

それは材料生産者が行っていることだが、消費者もまったく同じようにそのふたつを扱っ
ていて、皿に入っているものが球形であろうがなかろうが、パチャルチナと呼ぶひともお
り、あるいはムティアラと呼ぶひともいる。つまり社会全体がそうなっているということ
なのだろう。

行き着くところは、球形と角形が両方汁の中に入るということになって、タピオカの形態
で食べ物の名称を区別するのは不可能になり、完璧な同義語となってしまった。だからパ
チャルチナ・サグムティアラ・ムティアラサグは同義語として使われている。


自宅でムティアラの球形を作り出すのは道具が必要になるが、パチャルチナの角形なら特
別の道具がなくとも問題はない。作り方はこうだ。

器にタピオカ粉と塩を混ぜ、熱湯を少しずつ注いで木べらで混ぜる。熱さが手で触れるく
らいまで下がったら、こねてドウを作る。

ドウを分割して、それぞれに着けたい色を混ぜる。軟らかすぎると思えば粉を加え、硬す
ぎるなら湯を足す。着色が終わったら、全部のドウを薄く平らにのばして重ねる。よく押
さえて接着させてから小さく切る。

鍋にたっぷり湯を沸かし、切ったドウを投げ込んで、浮いてきたものをすくいとる。少し
ドウに透明感が出るほうがよい。
すくい取ったものをすぐ冷水に入れて、ドウ同士が粘りでくっつかないようにする。

それを当初に述べたムティアラ粒の代わりに使って甘い物をこしらえればよい。
パチャルチナであれムティアラであれ、それを茹でてからブブルスムスムやコラッ、ショ
ウガ飲料のsekoteng、アイスクリーム類、プリン類、菓子類に混ぜてもおいしいし、中に
はasinanや野菜の炒めものに混ぜるひともいる。

ところが、事態を更にややこしくするものがあった。それはbubur delimaあるいはbubur 
biji delimaと呼ばれているものだ。ザクロの実の粒に似た赤いサグムティアラだけで作
ったものに、そういう名前が付けられたのだ。ところがなんと、どうやらこれもサグムテ
ィアラやパチャルチナと同様の同義語関係の中に紛れ込んでしまい、袋の中身はパチャル
チナとまったく同じ物なのに、サグドゥリマという名前が付けられて売られているものも
ある始末だ。[ 続く ]