「黄家の人々(31)」(2022年07月08日)

しかし時には骨のある親がいて、ふたりが渡そうとする大金を握ろうとしない。娘を大金
持ちの玩具にし、娘の貞操を金で売るつもりはない、という親がたまにいて、ピウンとス
ロを困らせたのである。シアがむしゃぶりつきたくなるほどの美形でなければふたりは諦
めることもあったが、これは確実にシアがむしゃぶりつくという娘の親が骨ばっていれば、
手荒なこともした。なにしろふたりは殴り屋なのだ。

あるとき、ピウンがそんな親を殺して娘を手に入れ、シアから巨額の報酬を得た。死体は
スロが埋めた。タンバッシアには、親を殺してまで、という意図がなかったから、ピウン
とスロの報告を聞いて、遺族に100フローリンの見舞金を渡すようふたりに言い付けた。

カンプン住民はピウンとスロを怖れて警察に殺人事件を届け出なかったので、事件はその
カンプン住民たちの記憶の中に閉じ込められ、ひとりの人間が姿を消した事実は闇の中に
隠れてしまった。

ウイ・チュンキは主に華人娘のハントを担当したが、かれはビンタンマスの管理担当も委
ねられたので、ピウンとスロほど頻繁に美女ハントはできなかったかもしれない。という
ことは、タンバッシアの慰み者になったのはムスリマのプリブミ娘の方が多かったという
ことなのだろうか。

性の快楽に酔い痴れるタンバッシアは更に快楽を高めようとしてアヘンの吸引を始めた。
相棒を務めたのはウイ・チュンキとボタンで、三人は美しい女にマッサージさせながら、
しばしばアヘンを楽しんだ。


プカロガンのレヘントの長男が割礼を受ける年ごろになった。割礼の祝祭が開かれ、母親
のラデンアユの実弟であるタンバッシアにも招待状が届いたので、かれはウイ・チュンキ
と下男ひとりを連れてプカロガンに向かった。

やってきたタンバッシアは、プカロガンの市中が祝祭気分に盛り上がっているのを見た。
レヘント夫妻は毎日、市内や近郊の観光にタンバッシアを誘い、またレシデン閣下や官房
長官、パティやウドノ、カピタンチナとレッナンチナたちがかわるがわる歓迎パーティを
開いたので、夜ごとプカロガンの町は華麗な祝宴で賑わった。ガムランの響きが夜空を覆
い、シンデンが唄い、タユブやタンダッが舞い踊った。

タンバッシアはブタウィの装飾デザイナーを呼んでレヘント邸宅の庭を造形制作品で飾っ
た。プカロガン住民は初めて見るブタウィのモダンな装飾芸術を見て感動し、タンバッシ
アを絶賛した。夜にはそこにたくさんの提灯が吊り下げられて灯りの祭典が繰り広げられ、
住民は大いによろこんだ。


タンバッシアは割礼を受ける自分の甥に1万フローリンもする宝石装身具をプレゼントし
た。ある夜の祝宴で、タンダッを踊る娘にタンバッシアは一目惚れした。黄色い明るい肌
と整った愛くるしい顔立ちのジャワ娘がかれの性欲をかきたてたのだ。かれは頻繁にプン
ドポの中央に出てその娘と踊った。女っぽい歌声と身のしぐさにタンバッシアの心が縛り
つけられた。この娘を喉から手が出るほど欲しがったタンバッシアだったが、姉のラデン
アユに遠慮していつものような積極性を示さなかった。

タンバッシアがプカロガンにやってきたときから、ラデンアユはかれに警告を与えていた
のだ。バタヴィアの大金持ちで高貴な家の家長がジャワの田舎娘を欲しがるのはとても見
苦しいことだ。中でも大勢の下賤な男たちの慰みものであるタユブやタンダッを欲しがる
など、恥知らずもいいところだ。

だが抑えようとすればするほど、かれの恋の炎は勢いを増して燃え盛った。細身の身体、
すんなり伸びた腕、衣服の下で滑らかに動く肉体、男の気持ちをそそる顔の表情。一緒に
踊っているとき、無意識のうちにかれの手は娘の身体に触ろうとして、そのたびにかれは
慌てて自分の動きを制御することに努めなければならなかった。祝宴の会場には、たくさ
んのジャワ貴族たちも席を連ねているのだ。姉夫婦に恥をかかせてはならない。[ 続く ]