「ナシトゥンパンの哲学(後)」(2022年07月08日) ジャワ文化の精髄とも言えるgotong royongと呼ばれる相互扶助思想を支えているurip tulung-tinulung(扶けあって生きる)、nandur kebecikan(善をなす)、males budi (恩を返す)といった各項目はナシトゥンパンを作って供するところに自ずと出現する。 ジャワ人の社会生活の中でナシトゥンパンがどのように扱われているのかを見れば、きっ とそれが納得されるにちがいあるまい。 祝宴に出されたナシトゥンパンの飯の山は切り分けられるものではないのである。みんな でそれを取り囲み、山の下から削り取って行くのだ。その飯におかずや他の具が添えられ る。ナシトゥンパンを切ることは、象徴的に語られている三つの関係を切断すると解釈さ れても仕方がない。そんなことをすれば、ナシトゥンパンの意義を損なうものになりかね ないのだから。 ましてや円錐の頂上を切り取るようなことをしてはならないのだ。そこには神に向けられ た人間の願いが込められているのである。 ナシトゥンパンには十数種類ものスタイルがある。その概略は次のようなものだ。 [tumpeng adhem-adheman] 別名tumpeng asrep-asrepan。王宮もしくは王宮の外で何らかの儀式が行われるとき、そ の行事がつつがなく行われるように王宮と王宮周辺にいる精霊たちに協力を請い、涼やか な雰囲気を作って支障が起こらないようにしてもらうためのもの。白飯のグヌガンの頂上 一帯にバナナ葉が巻かれる。 [tumpeng alus] 祝事のホストの誠意を示すもの。白飯のグヌガンが使われ、おかずはホストの都合に従っ て用意され、主にホストの手持ちの材料が使われる。 [tumpeng blawong] スルタンの誕生日を祝って王宮の奥向きで宗教祭祀を司るキヤイプンフルに贈られるもの。 キヤイプンフルもスルタンの一族が就任する。白飯のグヌガン。おかずはグダガン・デン デンラギ・カチャントロ・テンペバチュム・デンデンアゲ・ブンブプラス・ンパル・トゥ ロルピンダンから成っている。 [tumpeng among-among] 人間界の周囲にいる霊的存在への畏敬を示すもの。白飯と茹で野菜にブンブムゴノまたは グダガンが添えられる。 [tumpeng kapuranto] 赦しと和解を象徴するもの。青色をつけた飯と肉のサンバルゴレン・ウラップ・バッミ・ チャプチャイ・トゥロル・スムルダギン・プルクデル・アチャル・クルプッがおかず。 [tumpeng duplak] 祝事のホストの願いを神にかなえてもらうためのもの。白飯を作る時に、円錐形の蒸し器 の中に殻付きゆで卵を入れる。箕に白飯グヌガンを置くとき、頂上に卵一個分のくぼみを 作るため、頂上は尖らない。おかずはミンチ肉のサンバルゴレン・チャプチャイ・キュウ リのアチャル・牛肉のトリッまたはスムルダギン・トゥロルピンダン・トゥロルチェプロ ッ・プルクデル・クルプッウダンまたはルンぺイェが並ぶ。 [tumpeng punar] 祝事ホストが輝かしい人生、幸福で喜ばしい人生、財と繁栄に恵まれた人生を願って行う 祝宴。飯は黄色。 [tumpeng kendhit] 困苦や障害に直面している祝事ホストがそれを免れ、悪霊による支障を払うことを願って 行う宴。白飯グヌガンの外面中ほどがウコン汁で黄色くされた飯で帯状に巻かれる。おか ずはトゥンパンドゥプラッと同じ物が使われる。 [tumpeng megana] 祝事ホストが息災・幸福・神の祝福を願う祝宴。白飯グヌガンの中に茹で卵を入れ、周囲 に茹でたキャベツ・長豆・空心菜・モヤシ・ブンブムゴノを配する。グヌガンの頂上はバ ナナ葉のチョントンがかぶせられる。 [ 完 ]