「ヌサンタラの麺(6)」(2022年07月18日)

2000年から息子のワンディさんが仕事を手伝うようになり、2003年にダルトさん
は場所を借りて小規模ワルンを構えた。長い歳月を超えて働き続けたグロバッがワルンの
表に置かれていまだに使われている。客から見える場所でミアヤムを作るのは、良いデモ
ンストレーションになるとダルトさんは述べている。オープンキッチンなどという概念が
レストラン界に流行するはるか以前からグロバッ屋台はそれを実演していたということが
言えそうだ。

普通のミアヤムは一人前4千5百ルピア、バソを付けてミバソアヤムにすれば一人前5千
5百ルピア。このワルンでは麺とスープが別々に供される。だからミバソアヤムにすると
バソがスープの中に入って出て来るという違いになっている。麺のほうは丼の中に茹でた
麺とブンブと具のトッピングが入っているだけで汁気はない。それがインドネシアでのミ
アヤムの一般的な作法なのだ。

ワンディさんは毎朝午前3時にパサルへ買い物に行き、麺を17キロ、アヤムを13羽、
そして野菜や調味料を必要に応じて買ってくる。麺は1キロで11人前取れる。土日は麺
の仕入れが20キロに増えるそうだ。毎日午前10時半に開店し、たいてい夕方16時ご
ろには売り切れ閉店になるとダルトさんは語った。


そのダルトさんのワルンで行われているような、麺とブンブと肉野菜が汁無しで丼に置か
れ、ブイヨンスープは別の椀に入って供されるスタイルが、インドネシアのミアヤムの常
識になっている。ただし、グロバッ屋台は食器数の関係でひとつの丼に入れている所のほ
うが多いのではないかとわたしは私見している。

普通、汁麺は厨房で麺を入れた丼に汁をかけ、それが客のテーブルに運ばれるのだが、イ
ンドネシアのミアヤムはわざわざ汁と茹でた麺が別々になって出て来る。そのため、たい
ていの客は汁を麺の丼にぶっかけて食べるという手数を余儀なくされる。

ところがインドネシアのバッミワルンで他の客の食べ方を見ていると、汁をかけないで麺
と具だけを食べ、時々スプーンで汁を口に運ぶひとがいることに気が付く。これはいった
いどういうことなのかと疑問を抱いた方はいらっしゃらないだろうか?実は、麺そのもの
を味わうための作法がそのスタイルなのだそうだ。


だからそういう食べ方をさせるために、ミアヤムは麺と汁が分離されて別の容器で出て来
ているのである。それを斟酌せずに汁を麺にぶっかけて食べるのを通人は邪道だと思って
見ているかもしれない。しかし食べ方の作法には他のバリエーションもあって、中には麺
を汁に浸けて食べる、いわゆるつけ麺スタイルで食べているひとも時おり見うけられるの
である。

バッミの汁無し麺として食べる作法は、サービング方式からもそれが明らかなように思わ
れる。まず丼に油・醤油・ニンニクなどのブンブを入れておき、そこに茹でた麺を入れて
具を添える。スープはそこに入れないで別茶碗に入れて出される。客はまず丼の中身をか
き混ぜるのである。麺にブンブと油がからみ、更に具と麺が混じり合う。客はそれを食べ
るのだ。ブイヨンスープはときどき水分補給のために口に入れる。だから麺とスープが別
物として扱われているのである。

この方式は中国で行われているものがヌサンタラのミアヤムに摂りこまれたのだというイ
_ア語の論説があったものの、詳細説明がなかったためにわたしは首をかしげた。中国の
鶏肉面の食べ方は本当に麺と汁が分離されているのだろうか?

調査の結果見つかったのは中国の□面(□=手扁+労)だった。マンダリンでlao mian、
広東語でlou minと読まれるこの麺は英語でlo mein日本語ではローメンと呼ばれている。
□面は茹でた麺に油とブンブをからませ、肉野菜の具を添えて供される。スープが添えら
れるときは別椀に入れて出される。ミアヤムとまったく同じだ。一方、インドネシアの中
華食堂のメニューにあるlomieは普通、丼に汁と麺が一緒に入った姿で客の前に置かれる。
インドネシアのローミーは□面と別物だったのだろうか?[ 続く ]