「ヌサンタラの麺(7)」(2022年07月19日)

インドネシアのミアヤムは最初ヌサンタラで華人が始め、それを教わりまた模倣してプリ
ブミが作るようになったのだろう。華人は最初、バッ・アヤム・海鮮などを具に使う□面
を作ったのではあるまいか。プリブミはそれをアヤム専用にしたものの、サービングの作
法は□面のものが維持された結果、現在のミアヤムができあがったのかもしれない。


華人系プラナカンでバッミの奥義を究めた人物はその秘法をコンパス紙にこう語った。
1.まず麺を味わうこと。
バッミは麺が主体になっているのだが、具の味の方が濃い。スープも味付けされたブイヨ
ンになっていて、その味覚の方が麺そのものよりも強い。それらを一緒に口の中に入れて
しまえば、麺の味やテクスチャはまったく感じられなくなる。麺はその製造者が腕により
をかけて美味しいものを作ったというのに、消費者がそれを味わうことをしないで腹に入
れているのは宝の持ち腐れと言えるだろう。麺の愛好家はまず茹で上がった麺の風味を味
わうことから始めるべきだ。

2.ブイヨンスープをぶっかけないこと
ブイヨンスープも味が強いから、先に麺そのものを味わったら、次は具を味わうべきだ。
スープは塩気が強いのが普通であり、塩味で口中が「汚染」されてしまえば、調理された
具そのものの美味しさも分りにくくなる。スープをぶっかけてしまえば、口と舌は鈍感に
なり、もっとたくさん味わえるはずの味覚を狭めることになる。

3.丼の麺を均等にかき混ぜること
丼の底には油・醤油・ニンニクなどのブンブが入っている。それを茹でた麺に均等にから
ませるべきだ。調理人が既に一度からませているかもしれないが、しっかりと麺全部に行
き渡るようにもう一度かき混ぜるのが良い。

4.追加味を加えるのは後回し
たいていのひとは味に自分の好みを持っていて、サンバル・トマトソース・ケチャップマ
ニスなどを丼に足しこもうとする。それらの強力な追加味は厨房で用意されたバッミの本
来の味を打ち負かしてしまう。それをしてはいけないというのでなく、それをする前に本
来の味を一旦味わった上でするべきではないか。
まず素の麺を味わい、ブンブをからめた麺を味わう。そして具を味わい、ブイヨンスープ
を味わう。追加味は最終ステップになる。


で、そうやって一度全部を味わってみたあと、ブイヨンスープをぶっかけて良いのかどう
かについてのバッミ道の達人のコメントが記事には書かれていなかった。きっとそれは個
人の自由なのだろう。スープに浸さないで麺を味わうのが良ければそれもできるし、スー
プに浸した麺としてそれを食べたければそれも可能だ。

このミアヤムのサービング方式は実に、食べる人間の好きなようにさまざまな食べ方がで
きる機会を提供するものであったのだ。汁麺を食べたい人間に手間を掛けさせることが主
旨ではなかったのである。この廉価な一杯のミアヤムにそこまで細やかな配慮がなされて
いたのが間違いないのであれば、そこに見られる、人間というものに対する洞察の深さに
われわれは感嘆の思いを禁じ得ないのではないだろうか。


今年になって、そのインドネシアミアヤム式作法で即席麺を食べている若者の話題がソー
シャルメディアに登場した。ビデオに登場したのは、麺だけが載っている皿とスープだけ
が入った丼をパソコンデスクに置いて食べている光景だ。どうやら麺だけが一度茹でられ
て皿に置かれ、茹で後の鍋にブンブを入れて丼に取ったように見える。その皿の麺にはミ
アヤムのようにブンブがからめられているのだろうか?

もしもその即席麺に粉末ブンブと別袋で油と醤油等の混ぜられたサチェットが付属してい
れば可能だろうが、麺に対して量が少なすぎることが懸念される。粉末ブンブを茹でた麺
にからめれば量の問題は解消されるにせよ、同じ味のスープを別の丼に作る意味合いがな
くなるのではあるまいか。ともあれ、一度試みてみるのも面白そうだ。[ 続く ]