「黄家の人々(57)」(2022年08月15日)

副レシデン公邸でマヨールは、ウイ・チュンキ毒殺事件に関連してこの6人の証言を取り
調べ願いたいと警察機構のトップに依頼した。6人それぞれの口述が筆記され、その口述
記録書に本人と証人、そして副レシデンのサインがなされたあと、6人は帰宅するよう命
じられた。マヨールは6人に厚い謝意を表明してかれらを帰した。

副レシデンの事務所に残ったマヨールは、スーキンシアの濡れ衣が晴れたのだからかれを
即時釈放してくださいと副レシデンに頼んだが、副レシデンには別の考えがあった。
「マヨール、今はまだ早い。今夜7時にわたしが監獄へ行ってかれを解放するので、家で
待っていてください。このことはまだ誰にも知られないほうがよい。」

副レシデンが何を考えているのかよく分からなかったマヨールも、ともかく夜にはスーキ
ンシアが解放されることが約束されたので、かれは満足して自邸に帰った。


それから副レシデンはポアマン市警長官にあてて伝令を走らせた。今夜一緒に見回りを行
いたいので、6時に自宅で待機しているように、というのが連絡内容だった。そして陽が
落ちた。

副レシデンはポアマン長官と一緒にヴェルテフレーデン監獄を訪れてスーキンシアを釈放
させ、自分の馬車に乗せてマヨール邸に向かった。監獄に残った長官に対して副レシデン
はくれぐれもこの措置を秘密にするようにと念を押した。これがもし世間に漏れたら、あ
なたの地位があぶないとまで言われた長官は、上司はいったい何をするつもりなのかとい
ぶかしみながらも、監獄内に厳しいかん口令を敷いた。長官はウイ・チュンキの死を目の
当たりにしてその言や善しと信じていたのだから、当惑したのも無理はない。


副レシデンに伴われてスーキンシアがマヨールの家に到着したことで、かれの身を案じて
いたひとびとの表情に笑顔がもどった。副レシデンはマヨール邸で大歓迎された。そのお
祝い気分の中で、マヨールとスーキンシアは副レシデンに今回の事件の筋書きについての
推測を語った。タンバッシアが糸を引いている可能性が濃厚だ。ひょっとしたら、チュン
キを毒殺したのはタンバッシアではないだろうか、と。

マヨールはだいぶ前に起こったジラキンのワルン店主である鄭姓のシンケの失踪事件につ
いて、タンバッシアの手下のリム・セーホーという男がからんでいることを副レシデンに
知らせた。リム・セーホーの手配によってその男の妻がタンバッシアに奪われたのだ。そ
れはただの失踪事件でなかったかもしれない。
副レシデンはその事件を覚えていた。
「わかった。リム・セーホーを捕えて取り調べよう。」
するとマヨールは言った。
「まずタンバッシアを刑務所に入れて動けなくするのが先決です。あの男を封じておかな
ければ、捜査はどこかで暗礁に乗り上げるでしょう。」


スーキンシアも、タンバッシアの妾でタングランのパサルバルに住んでいるマサユグンジ
ンの弟テジャの失踪事件を副レシデンの耳に入れた。警察はその事件をまったく知らなか
った。スーキンシアは副レシデンに要請した。
「じゃあ、その事件はわたしが調べましょう。ただし、タンバッシアを動けなくしておか
ねばなりませんので、まずそれを行ってください。それから、わたしがその調査を行うこ
とは絶対秘密にするようお願いします。あともうひとつ、わたしに協力するようにタング
ラン警察に一筆書いていただけませんでしょうか。」
[ 続く ]