「ブッ、ブディ、ブダ(2)」(2022年08月15日) ボディは中国語に摂りこまれて菩提と音写された。中国中古代発音はブオディだそうだ。 中国語の菩提は啓蒙と知恵を意味しており、真理に覚醒した者について使われるという説 明になっている。 涅槃の境地に達したときの、宇宙と自己に対する覚醒の最終的な完成という意味で使われ ていた言葉だったわけだが、それも日本にその通り伝えられたものの、時代が下って世俗 化したときに菩提という語の意味に偏りが起こったようだ。日本語の菩提は覚醒の完成よ りも涅槃に達した面が強く取り上げられていて、叡智の完成なぞどこ吹く風という雰囲気 を感じさせている。 このボディもインドネシア語の中に摂取された。ところがKBBIではbodhiの語義を、 ブッダガウタマが悟りを開いたときにかれの座を覆っていた樹木、つまり菩提樹、として いるだけだ。 サンスクリット語でボディはsattvaという言葉と組み合わされてボディサトゥワという熟 語になった。サトゥワは英語ウィクショナリによれば、真髄、善、精神、存在、実体・生 き物、現実などの意味を持っている。ボディサトゥワを英語ウィクショナリは啓蒙された 存在、あるいは完成された叡智の真髄たる者と意味付けている。 ボディサトゥワも漢字に音写されて菩提薩□(□=土垂)という語が作られた。中国中古 代発音はブオディサットゥワとなっている。中国語百度百科によれば、この菩提薩□は次 のような語義であるそうだ。 ボディは佛陀の道であり、サトゥワは偉大な知性に依拠する生き物である。かれらはボデ ィサトゥワの道と呼ばれる佛陀の道に入るための偉大な精神を持つ者だ。ボディサトゥワ はかれらが到達する場なのである。情意を持つ生き物、佛の道に従って生きる者、佛の道 を担う意志を持つ者、それが菩提薩□だ。 中国では、この菩提薩□(ブオディサットゥワ)が菩薩(ブオサッ)に短縮されて、お互い に同義語になった。日本にもその両方が入って来たが、世俗の世界では原形がほとんど顧 みられず、短縮形がもっぱらになっているように見える。 インドネシア語にも、もちろんサンスクリット語のボディサトゥワが摂りこまれた。KB BIにbodhisatwaがcalon Buddhaという語義で採録されている。サンスクリット語のサト ゥワも動物という語義でインドネシア語に摂りこまれた。これからブッダになろうとして いる者は菩提樹の動物なのである、というのがKBBIから得られる解釈になりそうだ。 日本で般若心経と呼ばれているものはサンスクリット語の原典を玄奘三蔵が7世紀に漢語 訳したものだそうだ。サンスクリット語の原典はプラジュナパラミタフルダヤスートラで あり、中国では日本式の短縮方法を採らず般若波羅蜜多心経と呼ばないときはただの心経 と呼んでいるらしい。 わたしはインターネットの中でひろったプラジュナパラミタフルダヤスートラのアルファ ベット転写版を発音するのに難儀した。サンスクリット語の門外漢なのだから仕方がない。 だが門外のオッサンも習わぬ教を読んでみようと思ったのだ。これが難しくてありがたい 御経文である。[ 続く ]