「黄家の人々(59)」(2022年08月18日)

華人マヨールは副レシデンからの「タンバッシアを拘留した」という通知を得て、すぐに
配下の者にタンバッシアの自宅と市警長官公邸を見張らせた。その二カ所を往復する人間
がいれば、それはタンバッシアの情報運び人の可能性が高いため、捕らえて取り調べるよ
うに、というのが見張り役に与えられた任務だ。

タンバッシアも自分がなぜ拘留されたのかを推測した。おまけに、もう何日も経過したと
いうのに、取り調べは一度も行われない。自分への容疑は殺人だろうとかれは考え、対策
を講じるために手を打った。


ある朝、市警長官公邸からオパスがステッキを持って出て来た。追跡したところタンバッ
シアの自宅へ近づいて行く。すかさず、マヨールの配下の者たちはオパスを取り囲んだ。
オパスの話では、弟のマカウシアがこのステッキを必要としているのでかれに渡してほし
いとタンバッシアから頼まれたため、これを届けに行くのだ、ということだった。

その報告がマヨールに届くと、マヨールはステッキを持つオパスを同行させて副レシデン
を訪れた。副レシデンはそのステッキを綿密に観察した。黄金の握りがネジ止めされてい
る。副レシデンはネジを外した。すると中は空洞になっていて、紙が一枚入っていた。そ
の紙には文字が書かれている。副レシデンは声を出してそれを読み上げた。

兄弟
取り調べはまだなされない。殺人容疑以外には考えられない。そのため、すぐに対策を講
じてくれ。ピウンとスロを逃亡させるよう、手配してくれ。あのふたりが警察に捕まると、
オレはたいへん不利になる。 
タンバ(署名)


副レシデンはステッキを届けようとしたクチルという名のオパスを厳しく叱り、3カ月間
の職務停止を言い渡した。こんなことが二度と起こってはならないのだ。しかし警察側が
思わぬ拾い物をしたのも確かだった。ピウンとスロにすぐ指名手配がかけられ、そしてふ
たりはその日のうちに逮捕された。

主人のタンバッシアが逮捕されたことを知ったふたりは、何の事件に関連してそうなった
のかを知ろうとして情報を探していたのだ。タンバッシアに近い関係の人間を訪れて情報
を集めていたため、警察の聞き込み捜査に簡単に引っかかったのである。

その日もピウンはマサユが作ったバティックのサルンを履いていた。スロの予言したのが
きっとこれだったのだろう。ピウンが格闘の猛者であることはつとに有名で、しかも姿を
消す術を心得ているという噂もあったために、かれは鎖でがんじがらめにされてグロドッ
監獄の独房に入れられた。スロはそこまでの扱いを受けず、ふたりはそれぞれ別の独房に
入った。


その夜、スーキンシアが副レシデン公邸を訪れて調査結果を報告した。マサユグンジンの
弟テジャがピウンとスロに殺害されたのは事実であり、タングラン警察がふたりを捜索中
だがまだ捕まっていない。

すると副レシデンは朗らかな顔で言った。「ああ、そのふたりならグロドッ監獄に入って
いるよ。今から一緒にグロドッへ行こう。」

スーキンシアと副レシデンは馬車の中で、ピウンとスロに殺人を自白させようと話し合っ
た。スーキンシアは策を弄した。


ふたりは市警長官と刑務所長や看守たちに付き添われて、まずピウンの独房に向かった。
鎖でがんじがらめにされて滅入っているピウンにスーキンシアが話しかける。
「おい、ピウン。お前も馬鹿な男だな。何も自分の得にならないのに、主人のためにマサ
ユの弟のテジャを殺したおかげでこんな目にあっている。そのことはスロがもう副レシデ
ン閣下の前で自供したから、隠しても無駄だ。お前も閣下の前で罪を正直に告白すれば、
閣下も罰を免じてやろうとおっしゃっている。」
[ 続く ]