「黄家の人々(60)」(2022年08月19日)

隣にいる副レシデンがうなずいた。スーキンシアは傍にいる看守に言った。
「まずその重い戒めを解いてやろう。看守さん、やつの鎖をはずしてやってください。」

看守が中に入って鎖を解くと、ピウンは身体を伸ばして全身をほぐした。身体が楽になっ
たのはいいが、心は千々に乱れていた。『スロのやつめ、情けねえ男だ。口軽にべらべら
喋りやがって。しかし警察に分かってしまったのならもう仕方がねえ。ムショの中で鎖に
繋がれるのはもう嫌だ。オレも罰を免じてもらわなきゃ。』

呼ばれていた検事が到着すると、すぐにピウンの供述書が作られた。主人タンバッシアの
命令に従って、マサユの弟と名乗るテジャを殺害し、死体をサトウキビ畑に埋めた。この
サルンはそのときテジャが履いていたもので、命令を遂行した証拠として主人に示すため
に死体から取り上げた。


スーキンシアは副レシデンに耳打ちした。
『ジラキンのワルン店主だった鄭姓のシンケの失踪事件もありますよ。』

うなずいた副レシデンはピウンに言った。
「スロももう認めたように、ジラキンのワルン店主もお前たちが殺したそうだな。これも
お前たちの主人が命令したからだろう。それも認めてしまえ。お前たちは命令を実行した
だけなんだ。これはお前たちに罰を与えるためでなく、お前たちの主人が犯した悪行を明
らかにしてウイ・タンバに罰を与えるためなのだ。主人の命令を実行したお前たちが罰を
受け、命令した主人がお咎めなしでは片手落ちもいいとこじゃないか。」

ピウンは副レシデンとスーキンシアの手の上で踊るだけだった。検事は二つ目の殺害事件
の供述書をも作った。ジラキンのワルン店主を殺害して、死体は小さい林に埋めた、と。


トウランという名の検事は仕事の間中、不機嫌な顔をしていた。それもそのはずだ。金に
困ったとき、かれはこれまでしばしばタンバッシアに金を用立ててもらっていたのだから。
恩人である親しいババを、まるで副レシデンとスーキンシアが陥れようとしているように
かれは思った。真実がどうであれ、あのババが破滅するのは自分にとって良いことではな
い。しかし鋭い副レシデンの目はトウラン検事の心中を見抜いていた。

供述書作りが終わると、看守がまた中に入ってきてピウンを鎖でがんじがらめにした。
「おい、こりゃ話が違うぜ。」とピウンが吠えたが、みんなは背を向けて立ち去った。警
察の狡猾な罠にはめられたことをピウンは地団太踏んで悔しがった。

次はスロの口を割らせる番だ。一行は事務所に移ってそこにスロを呼ばせた。やってきた
スロはふたつの殺人を否定した。するとピウンの供述書を見せられた。スロは驚くととも
にピウンの愚かさに呆れた。警察に欺かれて自供したに違いあるまい。こうなれば仕方な
い。秘密が警察に暴かれた以上、いくら否定しても自分の得にはならない。自分も自供し
て心証を良くし、罪を軽くしてもらう方が得策に決まっている。こうして、スロの供述書
もできあがった。それが終わると副レシデンはトウラン検事を早々に帰宅させ、スーキン
シアを誘って自邸に戻った。


殺害犯ふたりの供述書は得られたが、それだけではまだ不十分なのだ。タンバッシアを確
実に有罪にするために、もっとたくさんの証拠や証人が必要だ。ふたつの殺人事件は、ま
ず警察が死体を発掘して検死報告書を作る。テジャの死体発掘を行うよう、副レシデンは
早急にタングラン警察に指示を出す。しかし、テジャ殺害事件の証人をもっとたくさん探
すのは、スーキンシアの方が適役だろう。副レシデンの要請に応えて、必ず閣下の希望を
満たすべく努めますとスーキンシアは約束した。[ 続く ]