「黄家の人々(63)」(2022年08月24日)

タンバッシアの犯罪を立証する情報や証拠がますます警察のファイルに増えた。それらを
いくら示してタンバッシアに自供させようとしても、タンバッシアは頑としてすべてを否
認した。そんな硬直状態が続いている中で、実兄の命を救うためにマカウシアは腹心の者
を送ってマヨールに頼み込んだ。「無罪にしてくれとは言わないが、死刑にだけはしない
でほしい。死刑を免れるための運動資金として10万フローリンを渡すから、できるかぎ
りのことをしてもらえないだろうか。」

タンバッシアを死刑にだけはしたくないという意志をもしもマヨールが示せば、判決の内
容が違ってくる可能性はもちろんある。頭領のマヨールひとりがそれを示せば、それが華
人コミュニティの総意であるということになるのだから。ましてや金を積んで法曹関係者
の間を運動して回れば、判決に手心が加えられることも十分に期待できる。マヨールは冷
笑しながら答えた。

「ハハハハハ。やっとマヨールというものを認知してくれたようだな。これまで犯した悪
行の数々を仲間だった者たちが警察に白状し、みんなから見捨てられ、逃げ場もなくなっ
てにっちもさっちも行かなくなったら、やっとマヨールに頼ることを思い出したのか。こ
の役立たずのマヨールにそんなことをする力はない、と伝えてくれ。」
「そんなことはないでしょう。あなたは華人社会の統率者なんだから。」
「そんなことを一度も認めたことのないタンバッシアにとっては、わたしは意味のない人
間なのだ。今更意味を持たせようとしても無駄なことだ。それが首尾一貫ということでは
ないのか。
マカウシアに伝えてくれ。タンバッシアの罪状はすべてが明るみに出た。もはや救いを求
めるすべはないと。」


マヨールは、婿のスーキンシアを陥れようとしてタンバッシアが仕組んだウイ・チュンキ
殺しに関する様相がいまだに闇の中であることに不満を抱いていた。目撃者もいなければ
関連する情報もまったく得られていない。それはつまり、他の人間がまったく関与しない
場所でかれらふたりがふたりきりでその狂言を演じたことを物語っている。

となれば、タンバッシアが自白しないかぎり、その犯行は闇の中に埋もれてしまう。拘留
中のタンバッシアに口を割らせる方法をマヨールは考えた。タンバッシアがまだ会ったこ
ともない人間を送り込んで、聞き出させてみよう。それにうってつけの人間がいたぞ。あ
いつなら、この仕事をうまくやり遂げるかもしれない。


ソウ・ブンチエという男がいる。マヨール邸にしげく出入りして何やかやとマヨールの公
務を手伝い、礼金をもらって食っているような男だ。話術が巧みでひとを笑わせるのがう
まく、普通の道化の数枚上を行く技術を持っている。人間の要所をつかんでその相手を笑
わせるために一芸演じるわけだから、頭の回転は人並みをはるかに上回っているだろう。
かれは昔からその才能で金持ち華人たちの心をつかみ、押しかけ手伝い人になって暮らし
を立ててきた。しかしタンバッシアとその関係者たちとは一度も関係を持ったことがない。
マヨールはすぐに副レシデン公邸に向かった。

副レシデンはマヨールのアイデアに積極的に乗った。市警長官に話を通し、ソウ・ブンチ
エを犯罪者として長官公邸の留置部屋に入れたのである。その前にマヨールとスーキンシ
アが必要な情報をブンチエに与え、タンバッシアを篭絡する秘法を教え込んだ。ブンチエ
はこのミッションをうまくやりおおせただろうか?[ 続く ]