「黄家の人々(65)」(2022年08月26日)

「本当にその通りだ、シア。あの悪辣なマヨールと婿の野郎はシアの容疑を重いものにす
るために、あちこちうろつき回ってあれこれほじくり返していますぜ。
で、そのシアの考えた絶妙な手段ってのは何です?聞きてえなあ。頭の良いシアが考え出
したことなんだから、きっと余人の考えも及ばないものだったにちがいないでしょう。そ
れを他の人間にやらせなかったんですかい?」
「チエ、おまえは分かってないなあ。スーキンシアを懲らしめるあれをもしオレ自身がや
っていなかったら、オレは今でも自由の身であり、殺人事件なども闇の中に埋もれたまま
だったろうに。そしたら、オレはこんな所に入れられることもなく、そしておまえとここ
で出会うこともなかったはずだ。」
タンバッシアはそれだけ言うと、深いため息をついて黙り込んだ。ブンチエもつられてた
め息をつき、タンバッシアに同調した。それも束の間、ブンチエはタンバッシアに語りか
けた。

「シアの素晴らしい考えって何でした?それをまだ聞かせてもらってませんぜ。」
「オレがウイ・チュンキに毒を飲ませたんだ。」
タンバッシアがそう言ったとたん、ブンチエは両手をあげてタンバッシアの話を押しとど
め、留置部屋のドアに近寄って外の気配を調べた。ブンチエのしぐさで一度口を閉じたタ
ンバッシアは、ブンチエがうなずいたので気楽に話を再開した。

「オレの絶妙なアイデアというのはこうだ。黙って毒入りケーキをウイ・チュンキに食べ
させ、その後でおまえは死ぬのだからこれからここへ呼ぶ市警長官と公証人にこう言えと
教えた。『スーキンシアに飲まされた薬草アラッに毒が入っていた』と。
残された妻子には5千フローリンの金を与えて立派な墓を作らせ、また暮らしも困らない
ようにオレが面倒見るから何も心配しないでよいのだ。チュンキは約束通り、市警長官と
公証人そして後から来た白人医師にも同じことを言って死んでいった。もちろんオレもそ
の金をチュンキの妻に渡して約束を果たした。
この手であいつを絶対に葬り去ることができると思ったから、その日すぐに実行に移した。
それが間違いだった。あの日、あいつが自宅にいることを確かめないままそのアイデアの
実行を始めてしまったんだ。それがオレの運の尽きになった。あいつは何日も前からメス
テルのゴーホーチャンに泊まり込みで出かけていて、あの日は自宅にいなかったんだ。お
かげであいつをはめる罠にオレがはまってしまった。あいつとマヨールはオレの古傷をほ
じくり返して、オレを葬ろうとしている。ああ、オレはここに拘留されていることに耐え
られない。」

タンバッシアが語り終わると、ブンチエは咳払いを3回した。すると窓の端に市警長官と
検事補が顔を出した。ブンチエがそこへ入って以来何日間も、警察は交代で窓の下に隠れ
てタンバッシアがウイ・チュンキ事件の真相を物語るのを待ち続けていたのだ。

ふたりは留置部屋のドアから中に入って来て、タンバッシアに言った。「ウイ・タンバの
自白をわれわれふたりははっきりと聞いた。リム・スーキンの供述とぴったり符合してい
る。あなたはもうウイ・チュンキ殺害事件を否認することができない。」

タンバッシアは激しい驚きに包まれて、口を開いたまま何も言うことができない。目を見
開き、全身が硬直し、あぶら汗が浮かんだ。「ち・・が・・う・・」という言葉が喉の奥
でかすかに聞こえたように思われたから、市警長官はタンバッシアに言った。
「おや、まだ否認するのかな。聞き分けのない人間は鎖でがんじがらめにしなきゃいけな
いようだ。」
[ 続く ]