「ヌサンタラの竹筒料理(5)」(2022年08月26日)

[Pa’piong]
スラウェシ島のトラジャ族に伝わる竹筒料理パッピオンはその昔、王族貴族だけが食する
階級料理だった。葬式や結婚式あるいはその他の宗教や慣習で定められた儀式の際に特権
階級が食すものだったのである。今現在では一般庶民にまで広く行き渡っていて、だれで
も食べることのできる料理になっている。
これは淡水魚・豚肉・牛肉・鶏肉などをそれぞれ野菜やスパイスと一緒に混ぜ合わせ、そ
れをバナナ葉を敷いた竹筒に詰めて焼いたものだ。焼いているとき、たいへん香ばしい、
食欲をそそる香が周辺一帯に漂うそうで、宴の列席者はそれを口にできる瞬間を待ちかね
るのが普通だと言われている。
竹一節分を一人前として作る場合もあれば、節を抜いて長いものを一挙に作る場合もある
ようだ。トラジャではこれを白飯のおかずにして食べるのが一般的だ。

[Ayam Buluh]
ブルとは竹のことで、ムラユ語源のインドネシア語とされている。面白いことに、英語の
バンブーもマレー半島でイギリス人が採取したことになっている。ならば、ムラユ人は何
のために同じ物品にふたつの名前を付けたのか?
イギリス人を前にしてムラユ人が使っていたバンブーという言葉はタミール語vempuに由
来しているそうだ。だからbambuというムラユ語はタミール人から借用したものだったの
である。さすがのムラユ人も竹にふたつの名称を付けることはしなかったのだ。
マナド料理のアヤムブルは鶏肉にブンブを塗り、野菜などと一緒にバナナ葉を敷いた竹筒
に詰めて焼く料理だ。ブンブは赤白バワン・トウガラシ・ショウガ・砂糖・ネギ葉・コブ
ミカン葉・スレーなどで作られる。
竹筒で焼いた鶏肉は油が溶けだしてブンブと混ざり、まるでスープのような味覚を愉しま
せてくれる。それがマナドのアヤムブルの高い人気を博しているゆえんにもなっている。

[Ayam Bambu]
マナドにアヤムブルがあれば、中部スラウェシ州パルにはアヤムバンブがある。名前が似
ているように、料理そのものもよく似ている。こちらも鶏肉にブンブをまぶし、竹筒に入
れて火にかけるのだが、パル風は竹筒に水をたっぷり入れる点に大きい違いがある。水を
加えて煮込むことでブンブが肉から骨にまでしみ込むのだ。たいへん美味な白飯のおかず
として珍重されている。

[Bebek Timbungan]
バリ島の王宮料理のひとつにベベッティンブ~ガンというものがある。これは王家のひと
びとだけが口にする特権階級料理だった。アヒルの肉にバサグデと呼ばれるブンブを塗り、
大きい竹筒に入れて火で焙るのである。じっくりと時間をかけて焙るため、肉は柔らかく、
ブンブもしっかり中までしみ込んでいる。バリ人は、このけっこう辛いブンブのしみ込ん
だべべッティンブ~ガンにサンバルマタを付けて食べている。
バサグデは赤白バワン・ショウガ・バンウコン・ナツメグ・クローブ・コリアンダ・クク
イ・ナンキョウ・スレー等々多彩なスパイスを使って作られる。
観光地として大衆化したバリ島の伝統文化の中に位置しているこのべべッティンブ~ガン
ではあるが、この料理はあまり一般化されておらず、知らないひとの方が多いそうだ。バ
リ島の「通」となるためには、やはりこれを探し出して口にしてみる必要があるかもしれ
ない。[ 続く ]