「黄家の人々(67)」(2022年08月30日)

タンバッシアをひいきする高官や商店主たちが、今度はBバックル氏を訪れて昔副レシデ
ンにしたのと同じことを裁判所総裁にした。タンバッシアは将来のある青年であり、バタ
ヴィアに有益なことができる男だ。軽い罰にして、それを務めあげた暁にはまた世の中に
復帰して役立つことをしてもらおう。総裁はそんな高官がやってくるたびに、できるだけ
あなたの意向に沿うよう努力しましょうと返事した。

兄のAバックル氏もやってきて、タンバッシア事件に関する種々の情報を弟に与え、でき
るだけ軽い判決にしてくれと依頼した。決して死罪にはしないようにと。それに対しても
総裁は色よい返事をした。兄はたいへん喜んだ。これで雇い主に対する自分の顔が立つ。
かれは10万フローリンがもう自分の手に入ったような気になった。


ほどなく、巡回裁判所でウイ・タンバッシア事件の裁判が始まった。第一被告ウイ・タン
バ、第二被告ピウン、第三被告スロ、弁護人Aバックルの四人が被告席に着き、30人を
超える証人も一堂に会した。起訴状がオランダ語で読み上げられて、すぐにムラユ語に翻
訳された。

裁判長の座に着いた総裁がタンバッシアに尋ねる。「ジラキンに住む鄭姓のワルン店主を
殺害するよう命じたか?」タンバッシアは否認した。

リム・セーホーが証言台に上がって証言した。宣誓してから、質問に答えてこう述べた。
「自分はそのシンケの妻のリーシーとタンバッシアの中を取り持ち、タンバッシアはリー
シーを夫から取り上げて自分のものにした。仲介の報酬として自分に5千ルピアをくれた。
しばらくしてそのシンケは姿を消した。リーシーに関してタンバッシアがその夫に嫉妬し、
配下の者に殺させたということを自分は聞いている。」


次の証人としてリーシーが証言台に座った。かの女はこう語った。
「わたしの前の夫が嫉妬のために殺されたのは本当です。タンバッシア自身がわたしにそ
う言ったのですから。」

タンバッシアはリーシーから顔をそむけた。自分が養ってやった女がその恩を踏みにじっ
ている。・・・かれの胸中は煮えくりかえっていたにちがいあるまい。

クヘニウス副レシデンは、シンケの遺体が小さい林で発見され、骨に鋭利な刃物で付けら
れた傷があったことを陳述した。

ピウンとスロが証言台に立たされた。最初ふたりは殺したことを否認した。すると刑務所
で副レシデンとスーキンシアおよびトウラン検事が作成した口述記録書が読み上げられた。
ふたりはそれで観念したらしく、主人タンバッシアの命令でシンケとテジャを殺害したこ
とを認めた。

自分が信頼していたふたりのチェンテンが自分に対する忠誠心を簡単に放棄したことにタ
ンバッシアは強いショックを受けた。かれはふたりを軽蔑した。


裁判長は第一被告に次ぎの質問をした。「プカロガンから上京して来たジャワ人のテジャ
を殺害するように命じたか?」タンバッシアは否認した。

証言台に座ったマサユ・グンジンは物語った。「タンバッシアはわたしの弟のテジャに嫉
妬してピウンとスロに殺害を命じ、弟はふたりに殺されました。そのとき弟が履いていた
バティックのサルンはわたしが描いたものです。ピウンがそれを取り上げて自分のものに
しました。証拠品としてこの法廷に置かれているサルンがわたしの作ったものです。」

自分が心底愛したマサユが自分に不利な証言をしたことに、タンバッシアは怒った。タン
ダッ踊り娘の身から引き上げて大奥様の暮らしを与えてやったというのに、このオレに反
抗してオレを陥れようとしている。オレが養ってやった女たちは、忠誠心のかけらも示さ
ないでオレの破滅に手を貸している。女というやつはこんな生き物だったのか・・・
[ 続く ]