「黄家の人々(68)」(2022年08月31日)

裁判長は第一被告に尋ねた。「ピウンとスロの証言は聞こえただろう。シンケとテジャの
殺害をふたりに命じたことをウイ・タンバは認めるか?」
「いいえ、わたしがピウンとスロに誰かを殺せと命じたことは一度もありません。」

華人マヨールのタン・エンコアンが証言台に上った。マヨールはこう証言した。
「ウイ・タンバがヴェルテフレーデンの市警長官公邸に留置されていたとき、クチルとい
う名の警察オパスに依頼して自分の弟のウイ・マカウにステッキを届けさせようとしまし
た。しかしそのステッキがマカウの手に渡る前にわたしの部下がクチルを捕え、わたしと
クチルは副レシデン閣下の前に出頭しました。副レシデン閣下がそのステッキを綿密に調
べたところ、ステッキの中に仕込まれていた紙が発見されました。その紙には、ウイ・タ
ンバがマカウにあてて書いた通信文がありました。それらは証拠品として、この法廷内に
置かれています。」

続いて裁判長はクチルと言う名のオパスを証言台に座らせた。クチルは言った。「ウイ・
タンバはわたしにステッキをマカウに届けるよう依頼し、その謝礼として50ルピアをく
れました。」

裁判長は第一被告に向かって言った。「先ほど被告はピウンとスロに殺害を命じたことは
一度もないと証言した。ところがピウンとスロを逃亡させるよう弟に依頼する手紙をステ
ッキの中に隠して届けさせようとした。そのようなことをした理由は何なのか?」
タンバッシアは何も言わない。すると裁判長はステッキの中に隠されていた、タンバッシ
アの署名のなされたマカウ宛の手紙を示した。タンバッシアは答えた。
「こんなものを書いたおぼえはありません。」


裁判長は次の質問に移った。「第一被告ウイ・タンバはウイ・チュンキに毒を盛ったか?」
タンバッシアは確信に満ちた声で答えた。
「リム・スーキンがウイ・チュンキに毒を飲ませたのです。ウイ・チュンキは死ぬ間際に
公証人・医師・ポアマン市警長官にそのことを語っています。ウイ・チュンキは薬草アラ
ッをコップに2杯、飲むよう強いられました。その中に毒が入っていたのです。」

スーキンシアが証言台に立って陳述した。
「ウイ・チュンキが毒殺された当日、わたしはバタヴィアにいませんでした。その日の2
日前からわたしはメステルのゴーホーチャンの社屋内に泊まり込んでいました。アトン検
事も毒殺当日の昼前にゴーホーチャンの社屋を訪れて、わたしがそこにいたのを見ていま
す。」

ゴーホーチャンのオーナー5人とアトン検事がそれぞれ証言台に立ち、スーキンシアの証
言が間違いないことを証言した。クヘニウス副レシデンがその証言の正しいことを証言し
た。かれらは華人マヨールと一緒に副レシデン公邸を訪れてリム・スーキンがその日バタ
ヴィアの自宅にいなかったことを証言し、自分がその口述記録書を作った。先ほどのかれ
らの証言はその時の口述記録書の内容とぴったり一致している。


ポアマン市警長官、副検事、ソウ・ブンチエが証言台で述べた。「ヴェルテフレーデンの
市警長官公邸の留置部屋に拘留されていたとき、自分がウイ・チュンキに毒を盛ったとウ
イ・タンバがみずから話しました。それは自分の強敵であるリム・スーキンを陥れるため
であったが、リム・スーキンがその日バタヴィアにいるかいないかを調べないまま実行に
移したことが手抜かりになり、自分が作った罠に自分が落ちたことが残念だと後悔の念を
表明しました。」

そしてそのとき作られた口述記録書が被告席に向けて読み上げられた。しかしタンバッシ
アは頑なにそれを否認した。自分はそんなことをブンチエにしゃべっていない。[ 続く ]