「黄家の人々(69)」(2022年09月01日)

ウイ・チュンキの未亡人であるアンシー夫人は証言台に就いて、震える声でとぎれとぎれ
に物語った。「あの日の夕方、タンバッシアの使用人リー・キンシエンがうちに来て、わ
たしの夫がリム・スーキンに毒を飲まされて死んだことを告げました。遺体はバタヴィア
公立病院で検死を受けていると言い、タンバッシアが良い墓を作って弔ってやるようにと
言ってこの金をくれたとわたしに5千ルピアもの大金を渡しました。」

アンシー夫人はただ緊張しているだけでなく、熱病に罹っている様子だったので、裁判長
は夫人に今すぐ帰宅するように勧め、夫人は早々に法廷を後にした。

続いてリー・キンシエンも、あの日タンバッシアに命じられて5千ルピアの金を渡すため
にウイ・チュンキの家を訪れた、と証言した。


裁判長は再びタンバッシアに質問した。ウイ・タンバはウイ・チュンキを毒殺したことを
認めるか?タンバッシアの同じ言葉がまた聞こえた。「わたしはそんなことをしていませ
ん。」
「自分がウイ・チュンキを殺していないのなら、ただ葬式を出すために5千ルピアという
まったく不釣り合いな大金を何のためにその妻に与えたのか?その金額は市警長官公邸留
置部屋でソウ・ブンチエに自ら話した金額と一致しているではないか。」
タンバッシアは何も言わなかった。顔色が青ざめていた。

こうして、予定されていた証人喚問は一通り終了し、その日の公判は終わった。タンバッ
シアが何を行ったのかについては証人たちの言葉からすべてが明らかになったものの、タ
ンバッシア自身はそれらを何ひとつ認めず、徹頭徹尾否認し通した。あとは判事団が協議
して判決を定めることになる。


数日後、巡回裁判所でウイ・タンバ事件の判決公判が開かれた。三人の被告と弁護人が被
告席に着いた。証人は検察側と弁護側にとって重要な者だけが招かれた。Aバックル弁護
人の最終弁論は長大なものになった。実に多くの証言の内容が互いに食い違っており、ウ
イ・タンバにかけられた容疑は適正なものでない。本法廷はそれらの不適正な容疑を拒否
し、被告をすべての容疑から解放するようにしていただきたい。

しかし裁判長は「ウイ・タンバの容疑事実は多くの証言から明白になった。食い違ってい
た証言はひとつもなく、すべて整合性がとれていた。よって、弁護人の要請は却下する。」
との応答を返した。弁護人はその言葉に怪訝な表情を浮かべた。


そして裁判長は判決文を読み上げたのである。ウイ・タンバとピウンには死に至るまで首
を吊る方法による死刑、スロには無期の流刑で死ぬまで鎖をはずしてはならないという刑
罰が与えられた。

被告三人が驚きと強いショックを受けたのは明らかだったが、弁護人もまるで自分が死刑
判決を受けたかのように感じたらしい。かれは弟が約束に背いて死刑判決を出すなど予想
だにしていなかったのだから。驚き余ってAバックル氏は急性の咳の病いに陥り、吐血し
たという話だ。

判決の噂は瞬く間に全バタヴィアに流れ、実にたくさんの市民が狂喜乱舞した。プチナン
では華人オフィサーたちがこぞって祝杯を挙げたそうだ。

警察にはブラックメールが押し寄せた。中に、タンバッシアは死刑囚房で毒を飲む計画を
立てているから、厳重に見張って無事吊るし首を実現させなければ警察は大恥をかくぞ、
という内容のものが少なくなかったため、グロドッ監獄はたいへん厳重な監視体制を組ん
だ。タンバッシアの飲食物はすべて、刑務所医師が毒の有無をチェックした。[ 続く ]