「ルジャッの真実(1)」(2022年09月01日)

ピーナツにヤシ砂糖とたっぷりのトウガラシを混ぜて練ったサンバルソースを酸っぱい未
熟果実にかけて食べるrujakを愛好する外国人はどのくらいいるのだろうか?わたしがイ
ンドネシア初心者のころ、ジャカルタでルジャッと言えば酸っぱい未熟マンゴの必ず入っ
たフルーツサラダに出会うのが常で、一二度チョバして自分の敵う相手でないことを悟っ
て以来、二度と口にすることがなかった。

しかしどうやら完熟マンゴのルジャッもあるそうだから、それはオプションなのかもしれ
ない。だがあのころ、わたしの周囲にいた女性たちはみんな未熟マンゴを食べていたよう
に思う。当時、完熟マンゴバージョンは果たして一般的になっていたのだろうか?

他の果実も甘味の少ないジャンブやブリンビン、あるいはバンクアンなどの水っぽいもの
が多く、あまり食指の動く相手でなかったことも確かだ。話では、ルジャッ愛好者はやた
らと辣いサンバルソースがターゲットであり、その辣味を満喫せんがために水っぽい果実
類が使われているという話だ。

ルジャッ料理人の話によれば、まず芋や熟れたての果実から食べるのが良いそうだ。そう
することでサンバルソースの辣味と果実の甘味が拮抗するのだろう。水分の多い果実は後
回しにする。辣味がクライマックスに達してから、水気でそれを収めていくことでhappy 
endingに至るらしい。


プリブミのルジャッ愛好者はたいていが女性であり、辣味初心者なら気絶しかねない強烈
な辣味をハーハー言いながら食べている光景が一般的なものという印象がわたしの脳裏に
刷り込まれている。

かの女たちは激烈な辣味に最初パニックの様相を呈しながらも、皿の中のものをどんどん
口の中に入れていく。その出だしのパニックの姿が、見る者に愉しさをもたらしてくれる
のだ。麗しい女性たちがパニックの様相を呈したなら、あなたの騎士道精神が揺さぶられ
ずにはおかないだろう。だがしかし、雄々しいかの女たちは辣味に決してへこたれないの
である。嬉々としてそれを乗り越えていくありさまは、見ていて痛快だ。

わたしが最初に受けた印象はおやつとして食されるものだったのだが、話によると食後の
デザートとして食べるひとも少なくないそうだ。わたしとしては信じられないような話の
ひとつがそれだった。食後のデザートにあの酸っぱく辣いものを食べる芸当は到底わたし
にできるものではない。それを大勢がしているのだと言われたとき、わたしはただ驚くば
かりだった。


ルジャッはジャワに由来する食物で、ルジャッという言葉自体がジャワ語だった。中部ジ
ャワで西暦901年に作られたタジジャワクノ碑文にrurujakという記載が見られるから、
ルジャッという食べ物はずいぶん古い歴史を持っていることがわかる。古代ジャワでは、
ある村が租税を免除されるdesa perdikanステータスを与えられたとき、その儀式の中で
ルジャッが捧げもののひとつに使われていた。

王国が租税を免除したのは、宗教上の聖所の世話や管理をその村にさせること、あるいは
その村に珍しい特産物があってそれを王宮に貢納させること、などの代償として行われる
ものになっていたからだ。王がその村に大きい恩を感じたとしても、それだけで村の租税
を免除するまでには至らなかったのではあるまいか。

ただし、その時代にトウガラシもピーナツもまだ中南米からアジアに伝えられていないは
ずだから、名前はそうでも品物は今のルジャッと異なるものだったにちがいあるまい。今
のガドガドのようなものではなかったかと推測する声もあるが、ソースは違う材料で作ら
れていたのではないだろうか。

そのあたりの状況がどうであったとしても、トウガラシの伝来以前はコショウか、あるい
はヌサンタラ産のやたらと辛いショウガなどが辣味のために使われていたそうだから、ト
ウガラシ伝来以前の東南アジアのひとびとの暮らしの中で辣味はトウガラシを知るまで一
般的でなかったなどと軽視してはいけない。[ 続く ]