「ルジャッの真実(4)」(2022年09月06日)

わたしも1970年代前半にその音を耳にした記憶が今でもよみがえって来るのだが、路
上物売りの食べ物を自分の意志で買い食いする習慣のなかったわたしは、それが何だった
のかを何十年も経過した今、はじめて知った。だが個人体験は時に、別の場所でもっと一
般性のある現象が起こっていなかったかどうかについての事実を示してくれないこともあ
る。1960年代に別の筆者が書いたものの中に、次のような文が見られる。

われわれがノンクロンしながら食べる中華風食べ物の中に、竜眼・ハスの実などが入った
中華ウェダンスコトゥン、ルジャッジュヒ、ルジャッ上海、ピエオー、ナシティム、ベベ
ッティム、バソサピなどがある。

この文から、1960年代にはルジャッジュヒという名前の食べ物が世の中に知られてい
たことが分かる。そしてルジャッジュヒ屋台の老舗のオーナーの中に、1960年代にこ
の商売を始めたと語るひとがいるから、この筆者の勘違いということも考えにくい。わた
しの1970年代前半の個人体験でも、ルジャッジュヒという言葉を何度も耳にしている
から、トロットッは特定地域で愛称に使われていたということかもしれない。


スラバヤではrujak cingurが有名だ。ジャワ語のチ~グルはインドネシア語のmoncongのこ
とで、これは牛馬犬豚のように顔の下部に鼻と口がある動物の口の部分を指している。つ
まりこのルジャッは牛の唇が使われているのだ。牛の唇を茹でてみじん切りにしたものが
素材の中に含まれている。

素材は果実類がクライ・バンクアン・未熟マンゴ・パイナップル・クドンドン・キュウリ
などで、そこにロントン・豆腐・テンペ・ブンドヨ・チ~グルが加えられ、さらにモヤシ
・カンクン・長豆などの野菜も入る。それらの素材を細かく切ったものにルジャッソース
がかけられる。ソースはエビのプティス・ヤシ砂糖・トウガラシ・炒めピーナツ・バワン
ゴレン・塩そしてピサンクルトゥッの薄切りをすり鉢ですりつぶし、湯を少量加えてトロ
ミをつけたもの。

素材の果実類はみんな生だが、他の素材は熱を通してある。その生の果実類をルジャッチ
~グルから抜いたものもバリエーションとして供されている。この変形版は素材が全部熱
の通ったものになっているために、matenganと呼ばれている。インドネシア語のmatangに
anが付いたものだ。

つまりこのルジャッチ~グルとは基本的に、フルーツサラダと飯やおかずを合わせたもの
に牛の唇ルジャッという名称が付けられたものになっているわけだ。ところが、そこから
フルーツサラダを抜いてしまったものすら依然としてルジャッチ~グルマタ~ガンと呼ばれ
ているのだから、フルーツサラダでないルジャッというものが認知されていることになり
はしないだろうか。


ルジャッのもっと変わり種はジャワ島東端に位置するバニュワギの特産料理rujak sotoだ
ろう。これはrujak petisにソトの汁を加えたものだ。ルジャップティスはジャワ島東部
で一般的に食されている食べ物で、キュウリ・バンクアン・未熟マンゴ・クドンドン・豆
腐・モヤシ・カンクンなどを細切れにしたものにソースをかけて供される。ソースは上で
述べたルジャッチ~グルのソースだ。そしてその上からさらにソトが注がれるのである。

ソトは普通、牛肉または牛臓物のソトになるものの、牛肉が値上がりすると鶏肉や、時に
は鶏足になったりもする。鶏足とはチェケルcekerだ。当然、肉の塊が皿の中央に鎮座す
ることも起こる。ただまあ、このルジャッはフルーツサラダの印象などいささかも感じら
れないものだから、それがルジャッと呼ばれるときにだけ、われわれに違和感が生じるこ
とになるのではあるまいか。

ルジャッチ~グルにしろルジャップティスにしろ、あるいはルジャッソトにしろ、東ジャ
ワのひとびとがルジャッという名前の食べ物に対して示す感覚は、ルジャッがフルーツサ
ラダであるという常識を覆すものではあるまいか。しこうして、かれらもフルーツサラダ
のルジャッを選り好みせずに食べているのだから、かれらにとって名前とは「ただの言葉
にすぎない」というシェークスピアのセリフの真髄を実践しているようにも見えてくるの
である。[ 続く ]