「さよなら死刑囚(終)」(2022年09月22日)

インドネシアは今でも死刑を存置させており、死刑囚に対する処刑執行も行われている。
処刑方法は銃殺で、深夜に非公開で実施される。1964年法律第2/PNPS/1964号に記さ
れている内容は、州警察長官が処刑隊を編成することから始まる。処刑隊責任者に士官が
任じられ、処刑隊はひとりの下士官に指揮された12人の兵士で構成される。

処刑隊が処刑現場に到着すると、死刑囚は布で目隠しされ、処刑隊に面して立つ・座る・
ひざまずく姿勢のどれかひとつを選択する。処刑隊が死刑囚に対峙して5メートル以上1
0メートル以下の距離に横隊で整列すると、隊指揮官が剣を抜いて隊員に死刑囚の心臓を
狙って銃を構えるよう命じる。

指揮官が振り下ろす剣の合図に従って、全隊員が発砲する。もし死刑囚にまだ生命が残っ
ていることが判明すれば、処刑隊は銃口を死刑囚の頭、正確には耳の上のこめかみ、に当
てて最後の発砲を行う。


インターネット上でこんな話も物語られている。国家警察機動旅団Brimobの処刑隊が実施
現場に出動を命じられる。それはいつも、世の中が寝静まった後の深夜の出動になる。1
2人の隊員と指揮官ひとりが指定された処刑場に出動する。一本だけ実弾が込められて他
は空砲の銃が人数分用意され、誰の手に実弾入りの銃が渡るのかは神のみぞ知るところと
なる。

現場では、処刑執行関係者と立会人が見守る中で、指揮官の合図に従って全処刑隊員が壁
を背にして立っている死刑囚の心臓を狙って発砲する。死刑囚が地面に倒れると、検死の
医師が死亡確認のために検診を行う。もしもこと切れていない場合、指揮官が拳銃で頭を
撃ち、死を確定させることが義務付けられている。

法律の文言と少し異なる点も見られるが、現実に運営された事例の一つにそんなケースが
あったのかもしれない。法律の運用が完璧な杓子定規で行われるのは理想論というものだ
ろう。


死刑囚がこと切れていない場合、わたしは指揮官が手を下すのが順当な作法であるように
感じる。その責任を与えられるのが12人中の一兵士であれば、それを命じられた者はた
まらないだろう。指揮官であればこそ、最後の責任を背負う人間として振る舞うのが当然
の義務であり、死刑囚の死を共に担う、ひとりの人間の死を見送ってやることのできる人
間の姿だと思うからだ。

わたしはそこに、死なねばならぬ者をできるかぎり短時間で冥途に送り込むことを武士の
情けとした武士道精神の匂いを感じ取るのである。

     幕が上がれば 芝居のはじまり
     主役はわたしで あなたは観客
     役柄は 執行猶予の死刑囚

[ 完 ]