「マルチ肉食(3)」(2022年10月06日)

デンデンクルバウ愛好者はむしろ、生産者のところへ直接買いに行く。生産者はみんな昔
ながらの家内工業で、乾燥作業は天日干しだから雨季の生産量はがた減りになる。太陽が
カッと照り付ければ乾燥プロセスは一日で終わるが、曇りがちだとそうはいかない。二日
かけたり三日かけたりして、やっと適切な乾燥具合になる。

生産者の多くは自分で食事ワルンを開いていて、生産品の消費がそこで確保できるから、
生産の余力を注文の量に合わせていれば在庫リスクは最小にできる。まあ製品自体が長期
在庫を可能にするものだから、事業リスクは元々小さいと言えるかもしれない。

水牛肉のラウォンを商っている食事ワルンの店主は、昔はデンデンクルバウが良く売れた
ものの、昨今はほとんど売れなくなったために取り扱いをやめてしまったと語っている。
セラン県の生産者のひとりは、30キロ生産したデンデンを三日がかりで販売していると
語る。その生産者の常連客で食事ワルンを持っているひとは、自分の店で一日に3キロを
消費するそうだ。


パンデグラン県へ行くと、パンデグラン郡やメネス郡にまだ生産者が残っている。メネス
の食肉加工業者はバソ生産者に水牛肉が売れるので、事業は比較的安定しているようだ。
パンデグラン県のデンデンクルバウ生産の発展は、鉄道建設がもたらしたものだった。

パンデグラン県ラブハンとルバッ県ランカスビトゥン間を鉄道が走っていたころ、乗客は
たいていナシウドゥッとデンデンクルバウを携えて汽車に乗った。乗降客の多い駅では、
デンデンクルバウの需要がたいそう高まった。その時代、パンデグラン郡カドマス村が代
表的な生産地のひとつになり、ランカスビトゥンから乗った客、ラブハンから乗った客が
カドマス駅でよくデンデンを買った。ところがその路線の鉄道運行が停止されたとき、パ
ンデグランやメネスのデンデンクルバウ生産者にクライシスが訪れたのだった。


今では、デンデンクルバウの需要が顕著に高まるシーズンはラマダン月やルバランになっ
ている。昔からの伝統がその食習慣を思い出させるのだろう。ブカプアサに、あるいはサ
ウルに、昔から食べられてきたデンデンクルバウがないとその雰囲気にならないのかもし
れない。その派のひとびとはラマダンやルバランにデンデンクルバウが手に入らないと悲
しくて涙を流すと物語るひともいる。

また、メッカ巡礼にもデンデンクルバウは必需品だそうで、バンテン人が巡礼に旅立つと
き、そのトランクには必ずデンデンクルバウが収まっているという話だ。


バンテン地方では昔から、水牛の持ち主が水牛を世話人に預けて飼育させる習慣があった。
ところが、持ち主と世話人の間に報酬の授受がないのだ。もちろん、持ち主と世話人が主
従関係にあるわけでもない。ならば世話人のメリットは何なのか?かれのメリットは、飼
育委託された水牛が産んだ子供を自分の所有物にできる点にある。このシステムはバンテ
ンでmaroと呼ばれている。

セラン県クドゥンチンデ村の住民サルワニさんは先祖代々、委託された水牛の飼育を家業
にしてきた。かれが預かっている水牛は5頭いて、毎日牧草地へその5頭を連れて行って
夕方帰宅するのが仕事になっている。

水田を耕す季節になると、水田所有者や耕作者は水牛の所有者や世話人から水牛を借りて
鋤く。借り賃は無料だ。どうしてそのような習慣が作られたのかよく分からないのだが、
たとえ無料であっても、単なる借り得になることはありえない。収穫の後、その謝礼が貸
主のところに届けられるのが不文律になっている。

もちろん、賃貸トラクター商売もある。トラクターをレンタルすれば一日いくらの費用が
出ていくし、また燃料費も借手の負担になる。しかし収穫がそのために減ることはない。
バンテンの農民はそのようなオプションが選択できる社会に住んでいると言うことができ
るだろう。

水田所有者や耕作者が水田を耕すとき、水牛を使って自分で作業すれば、出費をゼロにで
きるというのがこの社会システムのメリットのようだ。しかし無料で水牛を借りられても、
他人を使って田鋤き作業をさせればそうはいかなくなるのだが。[ 続く ]