「マルチ肉食(4)」(2022年10月07日)

家畜の所有者が世話人に家畜を委ねて飼育させるシステムはスンバ島でも行われており、
預けた家畜に子供が生まれると世話人の所有物になるというバンテンのマロ制度に似たよ
うなhotu制度も営まれている。

スンバ島では所有者が世話人に毎月コメ・砂糖・灯油を現物支給している。そしてスンバ
のホトゥ制度では、生まれた子供が5頭になるとそのうちの1頭が世話人のものになるの
だ。スンバ島には馬・牛・水牛がバンテンよりはるかにたくさんいて、世話人が預かる家
畜の数も桁違いだから、5頭くらいの子供は続々と生まれてくるようだ。スンバ島のカウ
ボーイ社会の概略はこちらでどうぞ。
http://omdoyok.web.fc2.com/Kawan/Kawan-NishiShourou/Kawan-68KudaNusantara.pdf


ある土地で、人間生活に深く関わったり自然の摂理によってありふれた存在になっている
動物は、そこの地元民のための食肉になって当然だったように思われる。他の土地では何
らかの理由で一般的な食肉とされていないものであっても、そこの土地の地元民には普通
の食材になった。だから他の土地の人間がそこの地元民の食習慣を異様で異常なものと見
なすのは、自己中心主義的偏見ではあるまいか。そんな狭い視野で世界を見ていては、国
際理解や世界平和などから遠ざかる一方だろう。

たとえばカザフスタンでは、太古から馬は人間になくてならない乗り物になっていたから、
そこの地元民は昔から馬肉を食べてきた。今でもそれはたいして変わっていない。かれら
にとって、牛肉は貴重品なのだそうだ。カザフスタンは馬肉の輸出振興に努めているもの
の、輸入してくれる国の少ないのが悩みの種と嘆いている。

カザフスタンまで行かなくても、インドネシアの中に馬肉が普通食になっている土地があ
る。それは南スラウェシ州Jeneponto県。スラウェシ島内どころか、全国的にも馬の飼育
頭数が最大の土地だ。馬を買いたい人間は全ヌサンタラからジネポントの馬市に集まって
来るのが常識になっている。

ジネポント県民は馬肉を好んで食用にしており、祝祭に馬肉がないと祝いにならない。大
層な金持ちは別にして、一般庶民が毎日馬肉食をしているというわけでは決してないのだ
が、毎日馬肉の使われている料理を食べようとすればできないことでもない、という雰囲
気だ。もちろん馬の飼育は食肉用が目的ではなく、他の用途に使えなくなった馬が食べら
れているというのが実態だろう。その点はカザフスタンとて違いはあるまい。


しかし一般のインドネシア人にとって馬肉食は過激料理に該当するようで、どこの国でも
習慣が自己の思考パターンを決めてしまい、選択される価値が三つ子の魂のまま墓に入る
人間であふれているようだ。

そんなことから、「馬肉食を行う民族はかれらだ」という記事がイ_ア語インターネット
に登場し、フランス・中国・カザフスタン・インドネシア・ドイツ・ベルギー・日本・ス
イス・スコットランドの9か国がその栄誉を授けられた。日本が世界有数の馬肉食国だと
言われて驚いた読者はいらっしゃるだろうか?日本の外から日本を見ると、中にいる時に
は見えないものが見えてくるというのは真理であるにちがいあるまい。

フランス人がその筆頭にいたのを見て、わたしはひとつのエピソードを思い出した。第一
次大戦前のフランスで、ドイツが騎馬兵団を機甲化部隊にするためにタンクを開発してい
るという機密情報を得たフランス軍上層部が今後の方針について議論した。馬を愛する将
軍のひとりは機甲化部隊構想に大反対して、馬の良さを数え上げた。燃料がなければ戦車
は動けないなどといったいくつかの比較の最後に述べられたものがなんと、「馬は食える」
というメリットだったのである。[ 続く ]