「留学史(8)」(2022年10月13日)

1.ヨーロッパを自分の目で見る。視野を広げ、教養を豊かにする。
これができるのは金持ち層だけだ。渡航費も生活費もあまりにも高額すぎる。そしてこの
目的が効果を発揮するのは、オランダ人が言うところの「一般教養」なるものを十分に身
に着けている人間だけなのだ。

ヨーロッパで教養のある諸人種と交じわって暮らすには、オランダ語ができるだけではい
けない。オランダ語はオランダ国内で暮らすとき、そしてオランダ船で船旅をするときに
は有益だが、オランダの外に出たら英語・フランス語・ドイツ語が必須になる。

それとは別に、外国へ旅し外国で暮らす者は身体強健で健康な状態であるのが必須条件だ。
旅立つ前に医者へ行って健康診断してもらうことを忘れてはならない。

まとめるなら、必要条件は:
A 資金が十分あること
B 教養が豊かであること
C 身体強健で健康
この三つのうちのひとつが欠けても、ヨーロッパに渡るには不十分になる。インドネシア
にとどまる方が良い。

資金について、信頼できる支援者が必要金額を賄ってくれる場合、支出にはよくよく注意
し、経済的な生活を心がけるようにしなければならない。経済的な生活への意識が不十分
であれば、大切な金を浪費することになる。スマランのレヘントが一年間ヨーロッパで暮
らしたとき、その決算は3万フローリンが総支出額だったそうだ。そんなことにならない
ように。

ヨーロッパで暮らすに当たって、貴族だとか行政首長だとかいったインドネシアでの身分
や地位の肩書をひけらかすようなことは意味がない。そんなことをすれば、ヨーロッパ人
がインドネシアのプリブミよりもはるかに狡猾怜悧な人間であることを思い知らされる。
あなたの懐にある重い財布を軽くして楽をさせてあげようとしてかれらはあなたに掛かっ
て来るのだ。

ヨーロッパでは、金はインドネシアよりも甘い蜜の味がする。プリンスだのレヘントだの
といった称号はヨーロッパ人にとって、金を使うという局面に関わるときだけ意味があり、
そうでない場合は何の意味も持たない。金を浪費して見せれば、かれらはインドネシア人
をすぐに「プリンスインドネシア」と呼ぶ。いくら本当に王族貴族であったところで、金
のからまない場ではただの一個の人間でしかない。船がサバンを出たあとは、インドネシ
アの身分や地位は何の意味も持たないことを肝に銘じるように。


2.学問を修得する
学問の修得を目的にしてヨーロッパへ行く者は、その学問がインドネシアに戻った暁に自
分の生計の資を得るための職業に役立つものであるかどうかをまず、確認しておく必要が
ある。ヨーロッパで修得したあらゆる学問技術がすべて自己の生計の資を得るために活用
できる状態にインドネシアはまだなっていないのだ。インドネシアの職業生活の中で、人
種の違いは大きな毒を形成している。

さまざまな高等教育の学位の中で、現在のインドネシア人にとって有益なものは医学と法
学の学位だ。その学位を持っている者は、なんらかの理由で官立あるいは私立の組織で働
くことができなくても、個人で仕事をすることができる。

工学の学位なら、政府系の機関に雇用されなければならない。なぜなら、ヨーロッパ系民
間企業はインドネシア人インシニュールを雇用しないからだ。個人で仕事をしようとして
も、ヨーロッパ系企業はその分野の仕事をヨーロッパ人に注文するのが常であり、十分な
注文をもらえなければ生計を確立させるだけの収入が得られない。インドネシアの王族た
ちもインシニュールを使う必要が出たらヨーロッパ人を使うだろう。現代の王様たちは何
をするにつけ、まずレシデン閣下に相談する。自分の思い通りになんでも命じるというわ
けにいかないのだ。レシデン閣下の最重要責務は王家のみなさんの監督にあるのだから。
それが植民地政治というものなのだ。[ 続く ]